経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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パイロット不足問題から見えてくること

 格安航空会社(LCC)各社のパイロット不足が深刻になっています。ピーチ・アビエーションは、機長の病気などにより、最大で約2000便の運航を中止する予定です。バニラエアは、6月から全体の2割にあたる150便の運航を取りやめる方針を固めました。

 一部からはLCCのずさんな経営体質を批判する声が上がっているようですが、それは少し本質と異なる議論です。LCCのパイロットが不足している問題は、日本の航空行政のありかた、さらには日本経済そのものの体質に根本的な原因があるからです。

日本の航空輸送は世界から取り残されている
 パイロットが不足した直接的な原因は、LCCの普及で、パイロットに対する需要が一気に高まったからです。
 しかし、海外と異なり、日本ではLCCはまだ小さな存在です。それでもLCCが増えたことでパイロット不足になるということは、もともと日本におけるパイロットの絶対数が少ない事を意味しています。そしてこの状態は半ば、意図的に作られたものです。

 日本の航空政策は極めて閉鎖的といわれています。最近になって日本でも、ようやくLCC、LCCと騒がれるようになりましたが、北米や欧州、アジアなど他の地域でLCCの普及が始まったのは20年以上も前のことです。

 世界ではLCCの普及も手伝って、航空機の旅客輸送量は何と2倍から4倍に拡大しています。しかし日本だけは例外で、過去20年でほぼ横ばいという、完全なガラパゴス状態なのです。

 日本の航空旅客輸送量が伸びなかったのは、景気低迷も原因のひとつですが、政府が二大航空会社を守るため、新規参入を厳しく制限してきたことも大きく影響しています。
 二大航空会社は、競争がありませんから、大きな利益を上げることができます。したがって、自社で必要なパイロットは自社で養成し、他から獲得することはしていませんでした。

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日本でパイロットが足りなくなるのは当たり前
 LCCが登場し、航空会社間の競争が激しくなれば、当然、料金が下がり、利用者のメリットになります。実際、欧米やアジアの航空運賃は大幅に下がりましたが、日本の航空運賃は高いままです。

 本来、政府は、新規参入の航空会社が不利にならないよう、国として、パイロットを積極的に育成していくべきでした。しかし、日本では航空大学校以外の育成システムは整備されず、二大航空会社だけが自前でパイロットを育成するという状態が続いていたわけです。

 国内大手航空会社のパイロットの給料は国際的に見ても突出して高く、年収2000万円以上という人がたくさんいます。

 一方、LCCのパイロットは国際標準である数百万円レベルですので、大手からLCCに転職する人はほとんどいません。国としてパイロットを大量に育成していませんから、LCCがパイロット不足になるのは、当たり前のことなのです。

 もっとも日本では、本当の意味でのLCCは存在していません。各社は何らかの形で二大航空会社と資本関係があり、本気で戦いを挑んでいるわけではないのです。

 諸外国では、新規参入のLCCが大手航空会社を超える規模に成長しています。そして航空輸送の市場は急激な勢いで拡大し、人々はさらに自由に移動できるようになっています。

 日本だけがこうした動きから取り残されているというのが、偽らざる現実なのです。人の移動が乏しいエリアは経済的に成長しません。このような体制を今後も続けていくと、本当に取り返しのつかないことになるかもしれません。

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