経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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鳥取市の婚活イベント中止事件から考える「公金」の意味

 鳥取市が企画した婚活イベントについて批判が殺到したことから中止になるという騒ぎがありました。今回はこの話題から、公費というものについて考えてみたいと思います。

中止を決定した理由と批判する側の理屈
 このイベントのは鳥取市が民間企業と共同で企画したもので、運営費の90%が税金で補助されています。13日に開催のイベントは男性の参加資格を公務員に限定していたことから、市内外から「職業差別だ」といった批判が寄せられ、市は開催を中止する決定を行いました。

 重要なのは、このイベントに対する反応と中止する理由です。

 イベントを企画している「婚活サポートセンター」は「イベント参加者が気持ちよく参加できないことが想定されるため、中止いたします」と説明しています。つまり批判が出たので、参加者の感情に配慮して中止するというわけです。

 またこのイベントに対する批判の中には、かなりの割合で「職業差別だ」といったものがあったようです。この出来事を報じたニュースのコメント欄を見ても、裕福な公務員だけにおいしい思いをさせるのはケシカランといった内容が多く見受けられました。

 つまり、批判をする側は公務員だけがいい思いをすることについて良くないと主張し、それを受ける側も、参加者の気分が悪くなるので、中止するとしているわけですから、意見の対立はあるにせよ、考え方の枠組みは共通なようです。

 しかし本当にそれでいいのでしょうか?

 もしこのイベントに問題があるのだとすると、それは公費を使って特定の人の利益になるイベントを実施しようとしていたことであり、しかも、その対象が税金で生活している公務員であるという部分にあるはずです。職業差別云々とは、次元が異なります。

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公金は本来どこに使うべきなのか
 税金は公共のお金ですから、その使途については、常に厳しく監視し、議論していく必要があります。公金を無意味なものに使うということは、民主主義の世界ではあってはならないことです。そのために、議会というものがあり、予算を審議するシステムになっているわけです。

 こうした税金は、本来、市場メカニズムではどうしてもカバーできない部分に使うというのが原理原則です。民間でできることを税金で実施することに本質的な意味はありません。社会の維持に必要であるにも関わらず、民間ではなかなか実施できないところにお金を使うからこそ、強制的な税金の徴収が許容されるわけです。

 したがって、税金は社会保障や基礎インフラの維持に使うのが原則であり、そうでない場合の支出については、抑制的であるべきでしょう。

 地方によっては婚活が重要なことは分かりますが、これは決して民間企業では実施できないものではありません。その点から考えると、そもそもこういったところに税金を支出すべきなのかという点での議論が必要になると考えられます。また税金で実施する以上、その便益はできるだけ公平にしなければなりません。

 民間企業の婚活イベントでは、職業限定など当たり前の話であり、特に問題にすることではないでしょう。しかし、これが公金ということになると、次元はまったく違ったものになります。
 こうした視点あがれば、少なくとも「参加者が気持ちよく参加できないので中止する」という発想にはならないはずです。

 日本では税金の使い道に関する認識が非常に曖昧であり、これが安易な歳出拡大と債務増大に結びついています。今回の出来事をきっかけに、本来、税金とはどのようなものに支出すべきなのか、もう一度考え直してみるのもよいでしょう。

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