昨日、原油価格の下落によって、ロシア経済が危機に瀕しているという記事を書きました。原油価格の急落は、しばらくの間、世界経済における不安定要因のひとつとなることは間違いないのですが、日本におけるこの問題の扱われ方にはかなりクセがあります。
情報の非対称性という意味では非常に参考になるケースといってよいでしょう。
原油価格下落は、世界経済全体からすればメリットが大きい
原油価格の下落に関する報道でよく見かける論調は、原油価格の下落によって、米国のシェールガスブームが崩壊し、米国経済がダメージを受けるというものです。
確かに原油価格が下落すれば、採掘コストが高いシェールガス会社の中には、生産調整を迫られたり、場合によっては破たんするところが出てくるかもしれません。
しかし、こうしたミクロ的な部分ばかりに着目してしまうと、全体を見誤る可能性が高くなります。まず押さえておかなければならないのは、基本的に原油価格の下落は、石油の消費国(主に先進国)にとって朗報だという事実です。
先進工業国は基本的にエネルギーを消費して製品やサービスを提供しており、エネルギーコストの下落は、直接的な利益になります。
米国はダントツで世界最大の石油消費国ですから、原油価格下落の恩恵を最も受ける国のひとつなわけです。しかも、今回の石油価格の下落は、米国でシェールガスが開発されたことから、米国は今後、石油を輸入しなくても済むという需給要因が引き金になっています。
米国のシェールガス事業者の採算ラインは中東の産油国より高く、50ドル台では儲からないといわれています。しかし仮に石油が50ドル台を下回れば、数年前の価格から比較すると半額以下ですから、それだけで米国全体としては大きなメリットになります。逆に60ドル台で落ち着けば、米国は石油を輸入しなくても自国でエネルギーを賄えますから、これまた米国にとって大きなメリットです。
つまりどちらに転んでも米国は得するというのが、今回の原油価格の基本的な構造です。まずはこの大きな枠組みをしっかり押さえておく必要があるでしょう。その上で、原油価格の下落がもたらすリスクについて、慎重に検討する必要があるわけです(写真はオイルショック当時のOPEC総会の様子)。
マスメディアの報道が偏ってしまう理由
原油価格が下落する最大のリスクは、ロシアやベネズエラなど、経済が脆弱で、採掘コストが高く、国家財政のほとんどを原油に依存している国が危機に陥ることです(ロシアの採算ラインは100ドル近い水準だといわれています)。
ロシアやベネズエラの経済規模は大したことはありませんが、両国に融資をしている金融機関などにとっては、債権が焦げ付き、ちょっとした金融パニックになる可能性があります。
こうした金融危機が、投資マインドの縮小につながり、新興国から資金が一気に流出するような事態になると、世界の金融市場はかなりの混乱状態になると考えられます。目下最大のリスクはこのあたりでしょう。
これはあくまでも、金融的なリスクであり、世界経済が根本的におかしくなっているわけではありません。特に先進国は原油価格下落の恩恵を大きく受けますから、短期的には混乱があっても、長期的にはメリットの方が大きいと考えるべきです。
マスメディアは真実を報道しないとしばしば言われますが、それは本当です(筆者はジャーナリスト出身ですからこのあたりは実感としてよく分かります)。マスメディアも基本的には商売ですから、顧客である国民が望まない報道は基本的にやりたがりません。
日本には、米国経済がうまくいって欲しくないという潜在的願望を持つ人が多数存在しており、実はマスメディアの報道もそれをベースに制作されています。
したがって、原油価格の下落が米国経済にメリットをもたらすという報道よりも、米国のシェールガス・ブームが終了するというネガティブな報道が優先されやすいのです。
もちろん、シェールガス事業者にとって原油価格の下落は大打撃ですが、全体からすれば大した問題ではなく、本来ならベタ記事扱いです。
マスメディアから情報を収集する場合には、こうしたバイアスがかかっている可能性について、十分、注意する必要があります。