経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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米国の感謝祭セールを見れば来年の景気が分かる?

 米国では感謝祭を迎えたことで、いよいよ年末商戦のシーズンに突入しました。米国の場合、感謝祭からクリスマスまでの期間は、まさにお祭りムードとなり、日本では考えれないほど消費が活発になります。
 年末商戦の動向は、米国経済の先行きを占う重要な指標として多くの市場関係者が注目しています。日本経済にも大きく関係してくるテーマですから、チェックしておいて損はありません。

米国の感謝祭セールは米国経済の行方そのもの
 米国では 11月の第4木曜日は感謝祭の休日となりますが、多くの小売店では、その翌日から大がかりな値引きセールを行います。感謝祭からクリスマスまでの1カ月間、米国では年末商戦一色となり、小売店は年末商戦の期間だけで年間の売上げの2割を稼ぐといわれています。

 米国のGDPはその7割が個人消費で占められており(日本は約6割)、個人消費が経済に与える影響が極めて大きいのが特徴です。年末商戦の動向は、米国経済の先行きを示すバロメーターといってよいものです。

 今年は、米国景気が順調に回復していることに加えて、原油の大幅安という好条件が重なっています。11月7日に発表された雇用統計は、非農業部門雇用者数の増加が前月比21万4000人、失業率が5.8%と非常に良好な結果でした。

 米国では新規雇用者が20万人を超えると好景気とみなされます。また失業率は2008年7月以来の低い水準となっています。リーマンショックでは多くの人が失業し、条件の悪い仕事に乗り換えざるを得なかったともいわれています。一部の識者は失業率が改善しても、雇用の質は伴っていないと指摘しています。

 しかし、何はともあれ、稼ぐ事が大好きな米国人にとって、仕事があることは大変重要なことです。年末商戦を控えて失業率が低下していることはプラスに考えてよいでしょう。

 この状態に拍車をかけそうなのが大幅な原油安です。石油業界など一部の業界にはマイナスですが、米国の消費者にとってガソリン価格の下落がもたらす影響は極めて大きいはずです。ガソリン価格の低下で浮いたお金を年末商戦に回す可能性が高く、消費拡大が期待されます。

 こうした状況から、年末商戦の事前予想は非常に強気でした。全米小売業協会によると、年末商戦の売上高は前年同期比プラス4.1%と3年ぶりの高い伸びになる見通しを示しています。このため小売り各社の株価は年末商戦を前に急騰していました。

blackfriday

出足が悪いのはネットの普及による購買行動の変化?
 ところが、実際にフタを開けてみると、最初の一週間はそれほどの結果ではありませんでした。同じく小売業協会が集計した販売実績は昨年より10%ほど低かったのです。

 この結果に関する専門家の評価は分かれています。一部の専門家は消費者の財布はまだ固いとして慎重な姿勢を崩していませんが、一部の専門家は、購買行動の変化が背景にあると分析しています。

 米国では感謝祭の夜に家族で食事をし、次の日に行われるセールの列に並ぶのが恒例なのですが、セールは年々前倒しの傾向が強くなり、多くの小売店が、感謝祭前からすでにセールを行っています。
 最近では、木曜日に食事をして金曜日に買い物に行っていたのでは、お目当ての商品が買えないので、水曜日に食事を済ませてしまい、木曜日は買い物に邁進する家庭が増えているという話をよく聞きます。「最近の子どもは水曜日が感謝祭だと思っている」というジョークもあるようです。

 これに拍車をかけているのがネット小売店の躍進です。これまでネット小売店は、感謝祭明けの週から本格的にセールを始めていました。週末はとりあえずお店に並び、週明けからネットでじっくり買い物をする人が多かったからです。セール開始が月曜日なので、サイバーマンデーともいわれています。

 しかし、ネットの普及によって、すべての買い物をネットで済ませてしまう人が年々増えてきました。もっとも安い店を探し出すスマホのアプリはたくさんありますから、消費者はかなり戦略的に買い物をすることになります。感謝祭セールの出足が前年よりも悪いのは、商習慣の変化から消費者の買い物が分散している影響があると考えられているわけです。

 最終的にどのような結果になるのかは、年末にならなければ分かりませんが、米国の年末商戦の結果は、来年の米国経済の予想図です。日本の輸出産業の多くは米国経済に大きく依存していますから、米国の年末商戦が好調であれば、わたしたち日本人にとっても、理想的な1年の締めくくりになるはずです。

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