経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

米国株急落をどう見る?

 米国株式市場が急落しています。10月9日のダウ平均株価は、前日比334ドル安の1万6659ドルで取引を終了し、約1年3カ月ぶりの下げ幅となりました。続く10日も下げが止まらず、週明けの13日にはさらに223ドル下げて、最終的には1万6321ドルとなりました。これを受けて日本の株価も下落している状況です。

米国の経済は好調だが・・・
 市場では、世界的な景気見通しの低下によって株価が急落したと受け止められているようです。IMF(国際通貨基金)が7日発表した最新の世界経済見通しでは、全世界の成長率見通しは0.1ポイント引き下げられました。特に欧州と日本の景気失速が著しく、世界的なディスインフレ(インフレ率が低下すること)傾向がより顕著になってきています。

 ただ、今回の急落の評価が難しいのは、世界景気は減速しているものの、米国だけは今のところ例外という点です。
 米国の経済は、現在、非常に好調で、先ほどのIMFによる見通しにおいても、例外的に成長率が引き上げられています。先日発表された雇用統計も極めて良好となっており、米国では雇用者が順調に増えています。

 米国のGDPは7割が個人消費で占められていて、他の国と比較すると、世界経済の影響を受けにくい仕組みになっています。米国では異常気象が続き、消費の低迷が危惧されましたが、フタを開けてみると大した影響ではありませんでした。
 米国はこれから感謝祭セール、クリスマスセールなどの年末商戦が続きますので、雇用も堅調と考えられます。

 米国の株式市場は、世界中で米国だけが例外的に順調な成長を見せていることから、相当な勢いで上昇が続いていました。米国の不動産価格は、リーマンショック前の半分の水準まで回復したところですが、株式市場はとっくにリーマンショック前の水準を上回っています。

 企業業績が好調なので数字上はそれほど割高感はありませんが、あまりの連騰に、買われ過ぎなのではないかとの声も市場から出ていました。その意味では、今回の景気減速と株価の急落は、買われすぎた株価を調整するいい機会なのかもしれません。

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日本は難しい舵取りを迫られる?
 もっとも、このような楽観的な見方ばかりではありません。いくら米国が世界経済の影響を受けないといっても、欧州、日本、中国の景気低迷が続けば、米国経済もその影響を受けて失速する可能性があります。
 もしそうなってしまうと、米国株の下落は長引き、それは日本株にとっても大きなマイナスとなるでしょう。

 米国の株価急落によって、為替は一時的に円高になっていますが、全体的に見ればドル高になりやすい状況であることに変わりはありません。米国のルー財務長官は「強いドルは望ましい」とドル高を容認する発言を行っており、米国も基本的にはドル高を望んでいるようです。今のところ円高に逆戻りするリスクは少ないと考えられます。

 日本はすでに産業構造が変化しており、輸出で稼ぐモデルにはなっていません。しかしトヨタ自動車など、北米市場への依存度が大きい製造業は米国景気が失速すると業績の悪化につながってしまいます。日本としても、米国経済が失速せず、緩やかな形でドル高が進む方が総合的なメリットは大きいと考えられます。

 現在、世界景気の低迷見通しから原油価格も下落が進んでいます。原油価格の下落にも一長一短がありますが、エネルギーの輸入コストが経済を圧迫しつつある日本としては、原油価格下落はメリットの方が大きいでしょう。
 エネルギー価格の減少で浮いたコストを賃金に回し、消費のペースを維持することができれば、景気失速を防ぐことができますが、この舵取りはなかなか難しいでしょう。

 いずれにせよ、アベノミクスは、好調な米国経済と円安によって支えられてきた面が強いといえます。その意味では、アベノミクスは、いよいよ正念場を迎えているのかもしれません。

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