前回の記事では、アベノマスクについて、主に手続き面から問題的を指摘しました。今回は、アベノマスクに続いて不透明性が指摘されている持続化給付金について言及します。
業務を電通にほぼ丸投げした理由は?
問題となっているのは、経済産業省(中小企業庁)が実施する持続化給付金に関する事業です。この給付金は、新型コロナウイルスによって売上高が減少した事業者を支援するための制度で、原則としてオンラインで申請する仕組みになっています。
各世帯に対する一律10万円の支給は自治体が行っていますが、この給付金については、申請受付や支払いといった実務について民間事業者に委託されています。そして、この業務を一括受託したのが、一般社団法人サービスデザイン推進協議会という団体です。
ところが、この団体は769億円で業務を受注したものの、ほとんどの業務を749億円で電通に再委託していることが明らかとなりました。さらに電通は、パソナやトランスコスモス、システム子会社などにさらに業務を再委託していることも分かっています。しかも、この団体には、常勤の理事がおらず、非常勤理事には、電通やパソナの社員が含まれていました。このため、同団体は電通の名前を表に出さないための組織なのではないかと指摘する声が上がっています。
調達の制度上、業務の一部を外部に再委託することは認められていますが、業務のほとんどを外部に再委託する、いわゆる「丸投げ」ということになると話は変わってきます。これを認めてしまうと、隠れ蓑になる企業が案件を受注し、本来、受注資格がない会社が事実上、受注することが可能になってしまうからです。
政府は調達制度改革において、原則として丸投げを禁止する通達を出しています。これは随意契約を対象としたものですが、入札についても留意する必要があるとしており、今回の案件が丸投げ案件に相当しないのか、精査する必要があるでしょう。
入札の詳細情報が明らかにされていない
入札情報の詳細が公表されていないことも疑念を深める結果となっています。この案件は価格のみで事業者を選定する一般競争入札ではなく、価格以外にも技術点などを加味する総合評価方式という仕組みになっています。価格以外を評価項目にすると、場合によっては恣意的な選定につながる可能性があるため、総合評価方式の場合には、特に透明性の確保に留意する必要があります。
ところが、公開されている情報では、落札できなかった競合企業が提示した金額と、金額をもとに算定した価格点、金額以外の項目を評価する技術点の点数が明らかとなっておらず、どのような基準でサービスデザイン推進協議会が選定されたのか客観的理由が分かりません。
公開された調書では当該部分が黒塗りとなっていますが、入札の実務を知っている人からすると、もっとも大事な部分の情報が非開示になっているという印象が拭えません。
また入札結果には直接関係しませんが、700億円以上という超大型の役務提供案件であるにもかかわらず、業務実績などをもとにした参加資格について、すべての等級を対象にした理由についても疑問の声が上がっています。
通常、金額が大きい案件は、事業規模が大きく経営が安定している等級の高い事業者にのみ参加資格を絞るケースがほとんどですが、この案件は零細事業者も含めてすべての事業者が参加できる仕様となっていました。特定事業者に便宜を図っていなかったのか検証が必要でしょう。