経団連は、これまでの方針を転換し、政治献金を再開する方針を明らかにしました。経団連は、御手洗冨士夫会長の時代に政治献金を廃止していますから、5年ぶりの献金再開ということになります。
経団連の立場は大きく変わった
政治献金の再開については「政治を金で買うのか」「時代に逆行している」などといった批判も出ているようです。確かに政治献金の是非についてはいろいろな考え方があるわけですが、今回の献金再開は、もう少し違う視点で見た方がよさそうです。
それは、政府に頼らなければ商売を続けることすら難しくなった、日本の産業界の凋落ぶりです。
かつて経団連は、単独政権が続いていた自民党に多額の献金をするのは当たり前でした。経団連の会長は財界総理とも呼ばれ、日本の政治に対して絶大な影響力を持っていたのです。
しかし、日本の産業構造が変化するにつれて経団連の雰囲気も変わってきました。
奥田碩元会長時代には、政党の政策内容を検証し、その評価に応じて献金を実施する方式を採用することになり、より政策提言団体としての色合いが濃くなりました。その後、民主党への政権交代もあり、御手洗会長時代になると献金廃止に至ったわけです。
今回、新しい会長である榊原定征氏が音頭を取って献金再開となったのは、経団連と安倍政権の関係が冷え切っており、これを打開する必要があったからというのが表面的な理由です。
前会長の米倉氏は、安倍政権の経済政策を厳しく批判し、安倍政権と対立してしまいました。このため、経団連は政権からソッポを向かれ、政策に対して影響力を行使することが難しくなっていたのです。
このため経団連は新会長として、安倍首相と個人的に親しい榊原氏を新会長に据えました。経団連の会長は副会長から選ぶのが暗黙のルールでしたし、榊原氏はすでに経団連を引退した人物です。また東レという、従来であれば会長を輩出する会社の出身ではない点をとっても、異例だらけの人事といえます。
一方、自民党も解散総選挙を控えており、喉から手が出るほどお金が欲しい状況です。献金再開は非常にいいタイミングだったのかもしれません。
背景には日本企業の弱体化が
しかしもっと大きな視点で見ると、今回の献金再開は必須だったともいえます。それは日本企業が、政府の援助なしには立ち行かないほど弱体化しているからです。
安倍政権がスタートしてから、株価は上昇し、景気も回復しているように見えますが、GDP成長のほとんどは公共事業を中心とする政府支出に頼っているのが現実です。
個人消費はなかなか回復しませんし、企業の設備投資も思ったようには伸びません。それは企業自身が、国内での成長モデルに自信を持っていないからです。
本来であれば、国内の成長に限度があれば海外に活路を求めるものですが、グローバル化で遅れを取った日本企業は自主的な海外進出には躊躇するというところが少なくありません。結果として、政府による援助を求めてしまいがちです。
安倍氏は就任後、尋常ではないペースで外国を訪問していますが、多くの外国訪問に財界関係者を引き連れています。これはウラを返せば企業は政府のトップセールスに大きく依存していることになります。
実はこうした兆候は数年前から顕著になっていました。日本を代表する産業であるはずの自動車業界が、エコカー補助金という政府からの補助金を受け取る立場になってしまったことは記憶に新しい出来事です。また、エコポイントをばらまいた家電業界はいまだに業績を回復できていません。
政治との関係が密接な一部の業界は、政権との距離が重要となります。しかし、多くの産業はそうではなく、市場メカニズムに沿って事業を行った方が圧倒的に儲かります。
経団連の献金再開は、政府に寄らざるを得ない産業界の現状と大きく関係していると考えてよいでしょう。