米国のオバマ大統領は、これまでの方針を転換し、イラクとシリアで勢力を広げるイスラム過激派組織「イスラム国」に対し、本格的な攻撃を行うことを決定しました。状況の進展次第ですが、米国経済の今後に大きな影響を与えるかもしれません。
オバマ政権が嫌々方針転換?
オバマ大統領は2014年9月10日、テレビ演説を行い「イスラム国」に対して、イラクだけでなくシリアにおいても空爆を実施する方針を明らかにしました。またデンプシー統合参謀本部議長は9月16日、議会で証言し、米軍がイラクで地上戦を行う可能性について示唆しました。
オバマ政権は、これまで世界の紛争には不介入とする方針を掲げてきており、シリアやイラクの問題についてもなるだけ関与を避けてきました。
しかし、欧州を中心に米国の積極的な介入を求める声が大きくなっていることや、米国内でも中東への積極関与を強く求める声が高まってきており、オバマ大統領はこうした圧力に逆らうのが難しくなってきたようです。
オバマ大統領が地上軍の投入はないと説明しているにもかかわらず、軍の制服組トップが地上軍派遣に言及しているわけですから、ホワイトハウスはすでに国防総省を完全に掌握できていないのかもしれません。
オバマ大統領の任期が残り少ないことから、政権いわゆるレイムダック状態となっているわけですが、イラクやシリアの情勢悪化によってそれが加速してきたと考えられます。
このままいくと、次期大統領選挙は再びイラクでの戦争が争点になる可能性があります。というのも、オバマ政権の方針に反発する共和党に加えて、身内の民主党からも、オバマ政権の中東政策を批判する声が出ているからです。
次期大統領選における民主党の最有力候補のひとりである、ヒラリー・クリントン前国務長官は、アイオワ州で演説し「出馬を考えているのは事実」と述べ、事実上、大統領選への出馬を表明しました。
クリントン氏は、オバマ大統領とは正反対に、中東への関与について積極的といわれます。しかし、クリントン氏のこうしたスタンスは、一部の民主党支持者から反発を買い、オバマ大統領に敗れるきっかけともなりました。
現在、米国の世論調査では、圧倒的に経済への関心が高く、外交問題に対する国民の興味はほとんどありません。このため、クリントン氏は、出版した回顧録において「開戦支持は明らかに間違いだった」と述べ、地上軍を派遣することについても「絶対にない」と明言していました。
しかし、最近は「オバマ大統領のシリア政策は失敗だった」など、中東への積極関与を示唆する発言を行っており、クリントン氏のスタンスには変化が見られます。当然、その背景には大統領選挙出馬を前提にした政治資金獲得の思惑などもありそうです。
米国経済一人勝ちのシナリオが狂う?
こうなってくると、次期政権が共和党であれ、民主党であれ、再びイラクに積極介入する可能性が高くなってきます。しかし、米国の外交戦略の転換は、米国経済、ひいては世界経済にとってマイナスに作用するかもしれません。
現在のオバマ政権が掲げる「中東への不関与政策」は経済的な合理性があります。米国はシェールガス革命によって、近い将来、ほとんどのエネルギーを自給できるようになります。それどころか、余った石油を輸出できるようになる可能性も高いのです。
米国は先進国では唯一、順調に人口が伸びており、今後も比較的高い経済成長が実現できます。経済的な面だけを見れば、米国はもはや中東に影響力を保持しておく必要はないと考えるのが妥当でしょう。実際、オバマ政権はそのような未来図を描いていると思われます。
しかし、そのように合理的にはいかないのが政治というものです。軍事産業などを中心に、中東への深い関与を望む人たちは、積極的なロビー活動を通じて、現実の政治にそれを反映させようとします。
日本では永田町の論理という言葉がありますが、米国ではワシントンの論理ということなるでしょうか。
現在、欧州と日本では景気低迷から抜け出せない状況が続き、中国も失速が懸念されています。米国経済は一人勝ちが続くと予想されていました。
基本的な見方は変わらないと思いますが、イラクへの派兵が泥沼化するような展開になった場合には、こうしたシナリオに疑問符が付くことになるかもしれません。