安倍政権は、外国人労働者の本格的な受け入れという事実上の移民政策に舵を切りました。
日本は人手不足が深刻な状況ですが、単純労働に従事する労働者が不足するというのは、どの先進国でも発生している問題です。ところが諸外国の中には、単純労働を担う外国人労働者を大量に受けれることなく、問題に対処できている国もあります。
豪州で単純労働の移民問題が発生していない理由は「ワーホリ」
もっとも典型的なのはオーストラリアでしょう。オーストラリアは非常に豊かな国ですので、他の先進国と同様、単純労働者が不足するという問題が発生しています。
オーストラリアは移民大国というイメージがあり、実際に毎年数十万人の移民を受け入れていますが、一般的な移民大国のイメージとは少し異なります。同国はかつて白豪主義を掲げ、白人優遇の移民政策を続けていましたが、1970年代以降「多文化主義」に転じ、白人中心の移民制度は完全に撤廃しました。
しかし、完全にオープンな形での移民政策ではなく、受け入れる移民をかなり選別しています。同国が移民として主に受け入れているのは、経済に貢献する能力を持った高度人材であり、こうした「技能移民」は全体の7割に達しています。残りは豪州人の配偶者や子どもいった「家族移民」ですから、仕事を目的とした移民はすべて技能移民と考えてよいでしょう。
ではオーストラリアにおける単純労働は誰が担っているのでしょうか。それはワーキングホリデーの制度を使って世界からやってきた若者たちです。
ワーキングホリデー(ワーホリ)というのは、2国間の協定に基づき、外国で休暇を楽しみながら、その間の滞在資金を捻出する目的で一定の就労を認める制度です。期間は1年から2年で、原則として利用者はひとつの国について1回しか利用できません。
就労を認める制度であるといっても、制度の目的は、あくまで双方の若者が、相手国の文化を知るための滞在ですから、本格的な労働に従事することはできないルールになっています。結果として、彼等の多くは、アルバイト的な短期労働に従事することになります。
外国人に非寛容な社会ほど、外国人の問題に直面する皮肉
オーストラリアは、留学のインフラが整っており、諸外国の若者から人気が高い国として知られています。かつては日本人の若者も大挙してオーストラリアに語学留学していた時代もありました。ワーホリを使ってオーストラリアを訪れる若者は年間20万人にも達します。
つまりオーストラリアは、知的能力や体力があり、しかも単純労働に従事する意欲のある若者が、期間限定で常に20万~30万人存在しているわけです。彼等は国際交流のために訪問していますから、1年(もしくは2年)で、ほぼ100%母国に帰ることになります。
日本の人口にあてはめれば、100万~150万人規模の労働力ということになりますが、この数字は、現在の日本における外国人労働者数(100万人)をはるかに上回ります。つまり、日本でもオーストラリア並みのワーホリ入国者がいれば、数字上は、外国人労働者に頼る必要はまったくないという計算になるわけです。
オーストラリアにこれだけワーホリ目的の入国が多いのは、同国が外国人に対して寛容で、多様な価値観を認める社会であることが大きく影響しているでしょう。
つまり、多様な価値観を認める寛容な社会ほど、単純労働者の大量受け入れという問題に悩まされずに済むのです。日本の現状を考えると、この事実は大きな皮肉といってよいでしょう。