加谷珪一の金利教室 第9回
債券には1年以内に償還する短期のものと、5年を超える長期のものの2つがあります。銀行のローンも1年以内に返済する短期融資と返済期間が長期のものに分かれているます。そして、設定される金利も短期と長期では異なっているのが普通です。
一般的に短期の金利は低く、長期の金利は高くなる傾向が見られます。では、なぜ短期の金利は低く、長期の金利は高いのでしょうか。
実は明確な理由は分かっていない
短期金利が低く、長期金利が高いのは、一種の常識となってしまっているので、多くの人が当たり前だと思っていますから、これについて深く考える人はあまりいません。実は金融理論の世界でも、なぜ長期金利の方が高いのかについて明確な回答が得られているわけではないのです。
ただ、金利というものが時間と密接に関係した存在である以上、その理由も時間と大きく関係していることは間違いありません。一般的に長期と短期で金利差が生じている理由は、以下の2つが原因とされています。
①インフレ予想
②リスク・プレミアム
経済はデフレの時代とインフレの時代が交互にやってきますが、基本的にインフレが続く期間の方が圧倒的に長くなっています。日本はバブル崩壊以後、25年以上にわたってデフレが続いてきたのですが、これは世界的に見ても、歴史的に見ても非常に珍しいケースです。程度はともかくとしてインフレが継続するのが普通と思ってください。
そうなってくると、毎年物価は上がり続けるというのが定常状態ということになり、これが長期と短期の金利差の原因となります。
長期の方が金利が高くないとインフレで損してしまう
例えば、1年で1%の利回りが得られる1年物の債券があり、これを2年間運用すると仮定しましょう。毎年、物価は上がっていくので、現在1%になっている債券の利回りは2%になると皆が予想しています。
前回のコラムでは、金利というのは物価上昇率に応じて上がっていくという話をしました。利回り1%の1年物債券を運用すると、1年後には101円になっているはずです。
もし1年後に物価が1%上昇したと仮定すると、債券の利回りも上昇し、2%になっていると考えられます。したがって、先ほどの運用で得られた101円を、利回り2%の1年物債券に投資すると、さらに翌年には103円になっているはずです。
一方、2年が満期の債券があり、この利回りが1%だとすると、100円でこれを購入した投資家は、2年後には102円にしかならないので、この債券を買う投資家は現れないでしょう。少なくとも、前述のように、1年の債券投資を2回繰り返した利回りと同じにならなければ経済合理性がありません。
もし2年の債券の利回りが1.5%であれば、これを100円で購入した投資家は2年後には103万円を手にできます。つまり2年の金利(1.5%)は1年の金利(1.0%)よりも高くなっているわけです。皆がインフレになると予想している限り、長期の金利は高く推移することになりますから、これが長短金利差を生み出すわけです。
リスクプレミアムについては次回に説明しましょう。