2018年7月の地価調査(基準地価)において27年ぶりに上昇率がプラスに転じたことが明らかとなりました。長期にわたった地価の下落にようやく歯止めがかかったわけですが、中身を詳しく見ると、単純に喜んでばかりもいられないようです。
日本には何種類も地価がある
国土交通省が2018年9月18日に発表した7月1日時点における基準地価は、前年比プラス0.1%(全用途)となり、1991年以来、27年ぶりにプラスに転じました。
日本では縦割り行政の弊害で何種類も地価が存在しています。
「基準地価」は国土利用計画法に基づいて都道府県が毎年7月に調査を行っているものですが、似たような指標に「公示地価」というものがあり、こちらは毎年1月に国土交通省が調査を行っています。両者の調査方法は似ているので、基準地価と公示地価は時期の違いと考えて差し支えありません。
これ以外に国税庁が発表している「路線価」という指標もあります。
路線価はあくまで相続税の目安になるものですから、実勢価格とはかなり乖離しています。公示地価と基準地価は売買の目安として作成されており実勢価格に近いですが、それでも現実の取引価格とはしばしば乖離が生じます。基準地価や公示地価はあくまで全体の動きを見るための指標と思ってください。
1月に調査が行われた公示地価の調査では、すでに上昇率がプラスに転じていました。したがって今回発表された基準地価もプラスに転じていることは多くの関係者が予想していました。公示地価、基準地価ともプラスに転じましたから、長年続いた地価の下落がようやく下げ止まったわけです。
しかし地価上昇の分布を見ると、かなりのまだら模様となっています。
今回の地価調査で顕著だったのは、京都府や沖縄県など東京以外の商業地域です。京都の商業地における上昇率は7.5%、沖縄も7.2%とかなりの上げ幅となりました。これまでは東京など三大都市圏だけが顕著に上昇するという図式でしたから、状況は大きく変化したといえます。
インバウンド特需と人口減少が併存
こうした商業地の地価上昇の背景となっているのが、インバウンド需要です。これまで外国人観光客向けの投資は東京が中心でしたが、これが京都や那覇など、全国に拡大している様子が見て取れます。
インバウンドの恩恵を受ける一部の都市では不動産が活況を呈しているわけですが、日本全体という視点では、人口減少による不動産市場の低迷も同時進行しています。実際、京都では商業地の不動産価格が跳ね上がる一方、住宅地にはほとんど上昇が見られませんでした。
また北海道や日本海側など、過疎化が進む地域では、相変わらず住宅地の地価はマイナスが続いています。また宮城県や福岡県など上昇率が上がった地域でも、中核都市とそれ以外の地域の格差は広がっている可能性が高く、宮城県の場合には仙台市の一人勝ち、福岡県の場合にはやはり福岡市の一人勝ちとなっているはずです。
インバウンド需要を背景にした地価の上昇が、全国の住宅地にも波及すれば、全体的な効果が見込めますが、まだその状況にはなっていません。商業地域での活況が、住宅にも波及するのかが今後のポイントとなりそうです。