経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

石破ビジョンで日本経済はどうなるか予想してみた

 自民党の総裁選は、安倍晋三首相と石破茂元幹事長の一騎打ちとなりました。安倍氏はこれまでの実績を全面的にアピールする一方、石破氏は独自の政策である「石破ビジョン」を提唱、アベノミクスとは異なる路線を主張しています。
 安倍氏が勝利すれば基本的には現状の経済政策が維持される可能性が高いですが、石破氏が首相となった場合、経済はどのように推移するのでしょうか。

石破氏のアベノミクスに対する理解は完璧なのだが・・・

 石破氏は総裁選への出馬にあたって、自らの政策である「石破ビジョン」を提唱しました。7月には自らの主張をまとめた著書も出版しています。

 石破氏はアベノミクスについて「金融緩和と財政出動というカンフル剤でデフレ脱却を実現し、その間に経済構造改革を実施して中長期の成長エンジンに点火する(一部略)」政策であると、的確な説明を行っています。

 また日本経済の現状についても、アベノミクスの円安によって輸出企業の業績は伸びたものの、実質的に売上高は伸びておらず、その結果として賃金も上がっていないと明瞭に分析しているほか、失業率の低下についても、最大の要因は、高齢者の増加と若年層人口の減少であると指摘。
 売上高が増加しない中で企業が利益を上げているのはコストを下げていることが要因であり、国民の所得を抑制しているので長期的にはマイナス要因になると主張しています。

 この説明についてもまったくその通りであり、付け加える点はありません。石破氏は日本経済の現状について、ほぼ完璧に把握しているとみてよいでしょう。

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中期的にはどちらが首相になってもあまり変わらない

 ところが、完璧な現状認識とは裏腹に、具体的に打ち出された政策は明瞭なものではありませんでした。あえて言えば、石破氏が得意としてきた地方創生ということになるでしょう。

 石破氏は、日本は都市国家とは異なり、自然条件に恵まれた地方都市がたくさんあると主張しています。各地方がしっかり稼げる仕組みを構築できれば、日本経済は一気に底上げされるというメカニズムを想定しているようです。確かにその通りであり、この話に異論を挟む人はいないと思いますが、具体的にどのような施策を行うのかについてははっきり示されていません。

 では石破氏が首相に就任した場合、経済はどうなるのでしょうか?

 石破氏は量的緩和策や財政出動について、カンフル剤であると明確に位置付けていますから、この政策を無制限に続けるという選択肢はないでしょう。石破氏が首相になれば、何らかの形で軌道修正が行われる可能性が高いと考えられます。

 しかし現時点の株価は量的緩和策の継続が前提ですから、軌道修正が行われた場合、株価は伸び悩む可能性が高くなります。為替も一時的に円高に振れる可能性が高まりますから、輸出産業にとっては逆風です。

 こうした状況に陥ると、地方経済が疲弊しますが、地方重視の石破氏はこれを放置できないはずです。結果的に時限措置で国債を発行し、地方を中心に財政支援を行うという施策が現実味を帯びてきます。一方、石破氏は財政規律も重視していますから、最終的には増税という選択肢を検討せざるを得ないでしょう。

 しかしながら安倍氏が3選され、アベノミクスが継続となっても、いつかは量的緩和策の見直しが必要となります。中長期的にはどちらが首相になっても、何らかの形で国民負担が増加するのは避けられないと筆者は考えています。

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