お金持ちを科学する 第24回
お金持ちになれる人となれない人を比較しても、決定的な能力差が観察されるわけではありません。しかし両者の間には決定的な違いがあるのも事実です。それは物事の考え方、つまり思考回路です。
帰納法からは当たり前の結論しか出てこない
人が何かを考えて問題を解決する場合、主に2つの方向からのアプローチが存在すると言われています。ひとつは「帰納(きのう)法」、もうひとつは「演繹(えんえき)法」です。
帰納法は、複数の出来事の結果から、共通する因果関係を見つけ出し、一般的な法則を導き出す考え方です。例えば、ある商品が1000円で100個売れた、800円で200個売れた、500円で500個売れた、というデータがあったとすると、この商品は価格が安い方が販売数量が多くなるということが分かります。したがって低価格戦略が効果を発揮すると推測できます。
これに対して演繹法とは、「AならばB」「BはCである」といった論理つなぎ合わせ、ひとつの結論を得ていくというものです。わかりやすい例をあげてみましょう。日本は高齢化が進んでいる→だが高齢者向けの施設は少ない→高齢者向けの施設を建設すればお客さんが集まる、といった流れになります。
人が何かを考えるときには、あまり意識をしていなくても、たいていはどちらかの方法を用いているはずです。
帰納法は多くの日本人にとって馴染みやすい考え方のようで、市場分析などにおいても帰納法は多用されています。「最近のビジネスマンには○×の傾向が見られる」という分析はほとんどが帰納法を用いたものです。
ジョージ・ソロス氏は徹底的に演繹にこだわった
学校の勉強も同様で、問題を解くことに主眼が置かれているため、解けない問題は出されません。このため、きれいな答が用意されていて、その答を探せば良いというタイプのものと相性がよいという特徴があります。つまり、綺麗な法則を見つけ出す帰納法を使った問題の方が学校では扱いやすいのです。
ところがお金を儲けるためには、帰納法だけでは不十分です。なぜなら帰納法は、まずデータを収集してそれを分析するという流れになるので、すでに発生していることしか分析することができません。
結果として帰納法から得られる結論は極めて当たり前で、つまらないものになることがほとんどです。
皆が納得するような常識的な投資やビジネスには、すでに誰かが手をつけていますから、お金持ちになるためには、むしろ演繹法が大事になります。ちなみに著名投資家であるジョージ・ソロス氏は、帰納法をとことん否定した哲学者カール・ポパーの信者でもありました。
もちろん、世の中はバランスが大事ですから演繹法ばかりやっていてもダメでしょう。本当に賢いお金持ちは、最初は演繹法で考え、行き詰ると今度は帰納法に戻り、また演繹を行う、といった具合に演繹法と帰納法をうまく組み合わせているはずです。