加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第23回
前回は、情報の到達経路によってコンテンツの内容が変わってくるという話をしました。検索エンジンを経由した利用者は、コンテンツを掲載している媒体がどのようなものなのか把握していないままやってくるケースが大半です。しかも検索エンジンの掲載順位は、人々の願望によって変わってきますから、情報の優先順位もそれによって変化することになります。
集合知が機能する条件
グーグルなどが提供している検索エンジンのアルゴリズムには、集合知の考え方が応用されています。集合知というのは、簡単に言ってしまうと「みんなの意見は正しい」という考え方です。
集合知が正しいということの事例としてよく引き合いに出されるのが、1986年に起きたスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故です。事故直後、まだ原因も良く分からない段階から、ガス漏れを起こしたリングを製造している会社の株だけが下落を始めていました。
実際、詳しい調査結果が判明し、その会社のリングが原因であると特定された時には、株価はすでに大幅に下がった後でした。市場における「みんなの意見」は完璧に正しかったわけです。
グーグルの検索エンジンはこの考え方を応用し、多くの人がアクセスするサイトは有用であると判断し、これによって検索結果を順位付けをしています(それだけで順位が決まるわけではありませんが、リンクの数やアクセス数は極めて大きな判断材料です)。
しかしながら、「みんなの意見は正しい」という命題が成立するためには、①意見の多様性、②意見の独立性、③意見の分散性、④意見の集約性、という4つの条件を満たしている必要があります。つまり、皆が他人に左右されず、自分の情報源を使って自分の考えを表明した結果を集約すれば、必然的に正しい答えが得られるという理屈です。
客観的な情報を得るためには手間が必要
つまり集合知が成立するためには、社会において価値観の多様性が担保され、かつ、一定のモラルが確立している必要があります。逆にいうと、こうした条件が確立していない市場においてこの仕組みを適用すると、とんでもない結果をもたらしてしまう可能性もあるわけです。
日本は欧米各国と比較すると、社会において意見の多様性が確保されていません。また、ブログなどにアップされる情報のほとんどは、どこかのサイトの内容をそのままコピーしたものが多くなっています。このため、英語圏と比較した場合、検索エンジンの検索結果にはかなりの偏りが見られます。
このため、日本において検索エンジンを利用する場合には注意が必要です。
検索結果の順位をそのまま信用することはせず、画面に表示されたサマリーを見て、情報源についてある程度のアタリを付けた上でアクセスしないと、かなりの時間をロスしてしまうでしょう。
複数キーワードで検索したり、順位の低いサイトもチェックするといった手間も必要となります。少々、面倒ですが、客観的な情報分析を行いたい人にとって、この作業は避けて通ることができないものです。
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