加谷珪一の投資教室 実践編 第16回
株式市場には仕手筋と呼ばれる人たちがいます。定義は曖昧ですが、人為的に作った相場で短期間に大きな利益を得る投資家のことを指すことが多いようです。
具体的には、特定の銘柄を狙ってあらかじめ株を仕込んでおき、その後、大量の「買い」を入れ、意図的に株価を吊り上げ、その間に持ち株を売り逃げるという手法を用います。
かつては相場の華とも言われたが
かつては市場に多くの仕手筋が参加しており、彼等は「相場の華」ともいわれましたが、最近では大規模に活動する仕手筋はめっきり少なくなりました。
ただ、一部の投資家の中には、こうした仕手筋は大きな利益を得ているという「神話」が残っており、仕手筋の動向を知れば利益につながると考える人もいるようです。しかし現実には、仕手筋は世間でイメージされているほど荒稼ぎしているわけではありません。
仕手筋がそれほど儲からない理由は、投資金額の大きさと銘柄の取引規模を考えるとおおよそ想像できるはずです。
仕手筋が利益を上げるためには、一定期間に大量の買い注文を行い、株価をつり上げる必要があります。動きがよい銘柄には追随する一般投資家(これをチョウチン筋と呼びます)が買いを入れてくれるので、さらに株価は上昇します。
しかし、優良銘柄を中心とした大型株は、ちょっとやそっとの資金量では動きません。数千万円や数億円という程度の資金で株価を操るには、どうしても取引量の少ない小型株に狙いを定めることになります。いわゆる仕手銘柄にこうした企業が多いのは、株価を操作しやすいからです。
自らが入れた買いで株価が上昇し、これに追随する投資家によって株価にさらに弾みがついてきた段階で、仕手筋は最初に仕込んだ株を売却し、利益を得るという仕組みです。
投資は正攻法を貫くのがベスト
仕手筋が株を売る頃には、買いの勢いも途絶えてしまい、株価は急落することになりますが、株価の上昇のために費やした金額よりも、売り抜けて得た利益が大きければ仕手筋は得することになります。
しかし現実はそう簡単ではありません。
株価を容易に操作できる取引量の少ない銘柄は、大量の資金を仕込んでおくことが困難です。結果として、株価が上昇しても、得られる利益の絶対額は限定的となります。
一方、大量の資金を仕込める銘柄については、今度は株価の操作が難しくなります。少ない資金量では株価をつり上げることができないからです。そのような銘柄で株価上昇を演出しようと思ったら、いわゆる見せ玉(注文は出すが直前にキャンセルしてしまう)やインサイダー取引のような犯罪に手を染めるしかなくなってきます。
結果、株価の操作には成功したものの、手持ちの株式をすべて売り抜けることができず、大量の含み損を抱える仕手筋は少なくありません。したがって、仕手筋の動向を追えば、自分も大きく儲けられるという話も、現実には、かなり割り引いて考えた方がよいでしょう。
前回も解説しましたが、大きな金額になればなるほど、投資家は機動力を失ってきます。多くの人は、この事実になかなか気付かず、ウラでは大儲けしている人がいるのではないかと考えてしまいがちです。基本的に投資は、正攻法を貫くのベストです。