加谷珪一の知っトク経営学 組織編 第6回
【マズローの欲求段階説】
前回のリーダーシップの項目でも解説しましたが、部下のモチベーションを維持することはリーダーの重要な仕事のひとつです。またモチベーションをうまく管理することは、自分自身にとっても有益といってよいでしょう。
欲求には段階がある
経営学の世界では、かなり以前からモチベーションに関する研究が行われています。もっとも古典的な成果は、マズローの欲求段階説です。
マズロー(1908~1970)は経営学者ではなく心理学者であり、欲求段階説は心理学をはじめとして多くの分野で活用されていますから、経営学特有の概念というわけではありません。
また、こうした心理学をベースにした古典的なモチベーション理論は、現代の経営学から見れば、少々荒削りなところがあるのも事実です。しかし、マズローの欲求段階説は、モチベーション理論に関する古典として、今でも重宝されています。
マズローによると、人の欲求は以下の5種類に分類されます。
①生理的欲求
②安定欲求
③所属欲求
④尊厳欲求
⑤自己実現欲求
生理的欲求は、睡眠や食欲といった動物としての基礎となる欲求です。②の安定欲求は、安定した生活を望むという欲求ですから、やはり基礎的な欲求という意味合いが強いと考えてよいでしょう。具体的には、生活できるだけの稼ぎがある、健康状態を維持できるといったところになると思います。ここまではベーシックな欲求ですが、次からは少し次元が変わってきます。
承認欲求は昔からある話題
所属欲求は、何らかのコミュニティに属していたいという社会的な欲求です。これが満たされていないと、人は不安を感じることになります。
尊厳欲求は、所属したコミュニティにおいて、高く評価されたいという欲求です。最近よく「承認欲求」という言葉を聞きますが、世間一般でいわれている承認欲求と呼ばれるものの多くは、この尊厳欲求です。最後は自己実現欲求で、自分に対して「このようにありたい」と考えることを指しています。
マズローはこれらの欲求について二つの仮説を立てました。ひとつは欲求に対する人の行動です。
人は満たされない欲求があると、それを解決するように行動し、それがモチベーションにつながると彼は考えました。モチベーションの源泉は、欲求不満の解消というわけです。
もし行動の結果、問題が解決されるとその欲求不満も解消することになります。そうなると、積極的に行動する理由がなくなりますから、モチベーションは消滅してしまいます。
もうひとつは、この理論の根幹でもある欲求のレベルについてです。マズローは、①の生理的欲求を低次元の欲求と捉え、⑤の自己実現を高次元の欲求としました。欲求の解消には優先順位があり、①の生理的欲求からスタートし、それが解決されると徐々に欲求レベルを上げてくることになります。
ポイントとなるのは、最高位である自己実現欲求だけは、基本的に満たされることがなく、半永久的にこの欲求を解消するための行動が続くとしている点です。
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