加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第11回
本連載では「昔はこうだった」「最近はこうだ」という話には注意が必要であると解説してきましたが(参考記事「最近の新人はすぐ会社を辞めるという話のウソ/ホント」)、これに加えて「日本は~だから」という話にも注意が必要です。
こうした話は、無意識的に頭の中に刷り込まれている可能性が高く、客観的な分析の邪魔になります。情報リテラシーを高めたいのであれば、このような思考回路から自由になっておく必要があるでしょう。
本当に日本は狭いのか?
日本では何かにつけて「土地がない」という話が出てきます。日本は国土が狭いので、諸外国のように簡単に施設が作れないのだという文脈で使われることが多く、特に東京など大都市圏ではその傾向が顕著です。
日本の住宅事情の悪さや都市部における保育施設不足などが紹介された記事のコメント欄などを見ると、「日本は土地が狭いのだから当たり前だ」といった内容のオンパレードになっています。
しかしこの話は本当なのでしょうか。
世界の大都市の人口密度を比較すると、東京(23区)は特別に高いわけではなく、むしろパリやニューヨーク中心部方が人口密度は圧倒的に高くなっています。東京の人口密度が高いとされるのは、単純な行政区分での比較や、周辺都市も含めた広域で比較した場合のみです。
実際、バリやニューヨークの中心部にはたくさんの人が住んでいますが、保育施設を作ることができないという話は聞いたことがありません。土地が狭いから無理なのだという話を耳にした時には、何か別の理由を考えてみた方がよさそうです(保育施設が足りない本当の理由は別にあります)。
かつて新幹線が今ほど普及していなかった時代、「狭いニッポンそんなに急いでどこに行く」というセリフが流行したことがありました。これはもともと交通安全の標語として募集されたもので、交通安全に注意しましょうという意味でしたが、それが転じて、新幹線や飛行機など、高速移動手段に対する批判的なニュアンスでも使われるようになりました。
固定観念の有無は、とてつもない差を生み出す
この言葉が流行った理由は、日本は狭いという固定観念が存在していたことに加え、新しいモノに対する嫌悪感が影響したと考えられます。今でも、便利な新しいサービスが登場してくると、必ずといってよいほど、これを批判する声が出てきます。
しかし、現実はどうでしょうか。
今となっては、新幹線や航空機に対して速すぎるからケシカランという人はほとんどいません。スマホも出てきた当初はかなり否定的なニュアンスでしたが、今ではスマホを持っていない人の方が少数派です。インターネットが登場した時も、ウォークマンが登場した時もやはり同じでした。
便利で使い勝手のよい製品やサービスでも、最初はなぜか批判されます。しかし、しばらく経つと、誰も疑問に思うことすらなくなります。
固定観念は人の思考や行動に大きな影響を与えるものです。固定観念からの解放ができた人とできない人の間には、とてつもない差が出来上がってしまうのです。「日本は○×だから仕方がない」という話が出てきたら、まずは疑ってかかるというのがリテラリーを持った人の基本的なお作法です。
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