加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第7回
当たり前のことですが、多くの人はお金持ちではありません。このためお金持ちがどのような人たちで、どのような生活をしているのか、ほとんどの人が理解していないはずです。
このため、お金持ちに関する情報は、あまり世間からその真偽について検証されることがありません。ビジネスの世界では、こうした情報の非対称性がよく利用されています。
富裕層向けサービスの多くは富裕層向けではない
銀行には富裕層向けのサービスというものが存在しています。読者の皆さんも、メディアなどで目にした経験があるのではないかと思います。
典型的なイメージとしては、富裕層向けに用意された豪華な個室の中で、シャンパンなどを飲みながら、資産運用の相談をしたり、富裕層にしか提供されない金融商品の購入を検討するといったところでしょう。富裕層はゆったりとソファに座りながら、優雅に金融商品を選べるそうですから、何ともうらやましい限りです。
ところが不思議なことに、こうしたサービスが存在しているという話が紹介されるのは、一般の人が見る一般的なメディアです。記事の中には「実際にそのVIPルームに行ってみました!」といったものもあります。
銀行はお金のプロであり、あらゆる企業や個人のお金の出入りを把握しています。誰がお金を持っているのか誰よりも理解している業種ですから、もし本当に富裕層向けのサービスを始めたいなら、わざわざメディアで紹介することはせず、直接営業に行けばよいだけの話です。実際、ホンモノの富裕層の開拓はそのようにして行われます。
ではメディアなどで紹介される富裕層向けのサービスとは一体何のために存在するのでしょうか。カンの良い読者の方ならもうお分かりでしょう。
社会のあちこちに同じような仕掛けが
こうしたサービスは実は富裕層向けのものではないのです。ストレートに言ってしまえば、多少はお金を持っている中間層を取り込むための仕掛けなのです。
お金持ち対する憧れが強い人は、富裕層的な雰囲気のサービスに目がありません。こうしたサービスは、お金持ちに憧れる人の心理にうまく刺さるのです。実際に行ってみると分かると思いますが、そこで紹介される金融商品は特別なものではなく、ごく普通の金融商品であることがほとんどです。
こうした仕組みを分かった上でサービスを利用するならまったく問題ありませんし、他人がとやかく言う話ではないでしょう。しかし、単純にお金持ちになった気分で、結果的にたくさんの商品を買ってしまったのなら、それは相手の思うツボといってよいでしょう。
こうした巧妙な仕掛けは社会のあちこちに存在していますから、よく注意する必要があるのです。こうしたことも情報リテラシーのひとつです。
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