加谷珪一の知っトク経営学 第3回
【ホーソン実験】
テイラーやファヨールの業績によって、人は徹底的に管理すれば最大の成果を発揮すると考えられるようになりました。この考え方は基本的には正しいと思ってよいでしょう。業績がよくない会社の多くが、人をしっかりマネジメントできていません。
実際の生産現場を使って大規模な心理実験を行った
しかしながら、ただ徹底的に管理すればよいのかというとそうとも限りません。人間は心を持った生き物であり、科学的な合理性だけで行動するわけではないからです。
テイラーやファヨールの業績は、自動車メーカーである米フォードの大成功に象徴されるように、画一的な大量生産社会を生み出しました。当初は、大量生産による経済的メリットが人々を魅了しましたが、やがて、こうしたシステムの限界点も見えてくるようになってきます。
メイヨー(1880~1949)らハーバード大学の研究チームは、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場において、作業環境と生産性に関する実験を行いました。その結果、作業環境は生産性に影響しておらず、むしろ人間関係や人の感情に大きく左右されるということが明らかになったのです。
一連の研究が発表されて以降、経営学は経営管理論という側面に加えて、人間関係論や組織論まで拡張されることになりました。
テイラーの経営管理論では、仕事の効率というものは、労働条件に大きく依存すると考えられていました。一定時間ごとに休憩を取ったり、過重な労働を回避するといった配慮があれば、そこで働く人の生産性は向上するという考え方です。これは今でも通用する考え方ですし、皮膚感覚としても理解しやすいでしょう。
ところが人間とは不思議なもので、こうした外部環境だけで仕事の効率が決まるわけではありません。
環境よりもモチベーションによる効果が大きい
ホーソン実験では、組み立て工場の労働環境を意図的に変えることで生産性がどう変化するのか徹底的に調査が行われました。
休憩時間の設定や部屋の温度など、労働環境を改善すると、チームの生産性は向上しました。ここまでは予想通りの展開でしたが、問題はこの後です。チームの労働条件を元に戻したところ、当初の予想に反して生産性は低下しなかったのです。何度も労働条件を変化させましたが、チームの生産性は上昇を続けました。
メイヨーらの調査とは別ですが、ホーソン工場では照明に関する実験も行われました。
一般的に、照明の状況は生産性に大きく影響するはずです。当初は、照明が暗くなったり、条件が悪化すると生産性が低下すると予想されていましたが、結果はまったく逆でした。照明を変えて労働するグループの生産性は実験期間中、まったく落ちることがなかったのです。
一連の実験では、環境が悪くなったにもかかわらず、なぜ生産性が低下しなかったのでしょうか。その理由は、実験に参加した従業員のモチベーションにありました。
実験に参加した従業員は、実験のために自分は選抜されたという感覚を持っています。このため、明示的に意識していなくても、自分は特別であるという感覚が生まれ、がんばらなければという意識が働いた可能性が高いと考えられています。
一連の実験から分かることは、労働環境を良くすることも大事ですが、それ以上に、どんな気持ちで仕事に取り組むのかで成果は大きく変わるということです。
つまり企業をうまく経営するには「心」に関係する部分のマネジメントも重要であることを一連の実験は示しています。これらのバランスをうまく取ることができた企業が成功するのです。
次回はGMとフォードの対比から、効率化が必ずしも有益ではないという話を取り上げます。
「加谷珪一の知っトク経営学」もくじ