政府の新しい成長戦略がまとまりました。安倍首相は昨年、米国での講演において「日本を米国のようにベンチャー精神あふれる起業大国にする」というかなり大胆な発言を行っています。しかし、今回盛り込まれたベンチャー支援策は何とも奇妙な内容となっています。
ベンチャー支援策は失敗続き
日本の起業環境は世界でも最低レベルといわれています。国際的な起業家精神に関する調査(GEM)では、日本の起業活動指数は調査対象18カ国のうち最低ランクです。
実はこの問題は20年以上も前から指摘されており、経済産業省を中心に様々なベンチャー振興策が計画、実施されてきたのですが、ほとんど成果を上げていません。
当初、日本においてベンチャー企業の活動が低調なのは、ベンチャー企業への投資資金が不足していることが原因と思われていました。
このためベンチャー・キャピタルのファンドを整備するための法律を作ったり、国が予算を付けて投資ファンドに出資するなどの措置が取られましたが、状況はあまり変わりませんでした。
次に課題とされたのは、大学などの有望な技術が埋もれてしまっているという点でした。政府は1兆円ともいわれる予算を投入して大学発ベンチャーを活性化しようとしましたが、これもほとんど失敗に終わっています。
日本でベンチャービジネスがなかなか普及しないのは、資金の問題や技術の問題ではありません。大企業における既存の商慣行がベンチャー普及の大きなカベになっているのです。
本当に変わる必要があるのは大企業
ベンチャー企業はお金を集めて会社を作り、製品やサービスを開発しただけでは、成長することができません。顧客に製品やサービスを販売してはじめてビジネスになるわけです。そして、ベンチャー企業の新しい技術やサービスを買うのは、ベンチャー企業ではなく大企業なのです。
ところが日本では、大企業に対する製品やサービスの販売に大きなカベが存在するとの意見が多く聞かれます。つまり日本の大企業があまりにも保守的で、ベンチャー企業が提供する製品やサービスを「前例がない」という理由で採用しないのです。
これはデータにも表れています。日本の大企業が革新的な事業を手がける割合は、米国や中国の企業の6分の1程度しかありません。つまり、いくらベンチャー企業が革新的な製品やサービスを開発しても、それを購入し、利用する大企業が存在していないのです。
日本の大企業は、政府の規制や保守的な商習慣に守られ、激しい競争をしなくても済む環境に置かれています。わざわざリスクを取って、革新的なベンチャー企業の製品を使うメリットがないのです。
これに対して、米国や中国の企業は、競争が激しく、常に革新的なサービスを求められているため、ベンチャー企業が開発する新しい製品やサービスに常を目を光らせているわけです。
こうした状況を受け、今回のベンチャー支援策では、大企業とベンチャーが交流する、サロンのような場を提供し、ベンチャーから刺激を受けた大企業がイノベーションに取り組めるよう環境を整備するとしています。
しかし、もともとベンチャー企業の製品を採用しなかったような大企業が、交流会でベンチャーから刺激を受けたからといって、自社でベンチャー的な事業を開始するとはとても思えません。
本当に日本でベンチャーを発展させようと思うのであれば、変革すべきなのはむしろ大企業における競争環境なのです。