甘利経財相が、自らの金銭問題の責任を取って閣僚を辞任しましたが、今回の騒動からは思いがけない副産物が出てきました。それはUR(独立行政法人都市再生機構)という存在があらためて認識されたことです。
実はURは最期の聖域ともいえる組織で、多額の財政融資資金が投入されています。実はこうした組織の存在は、日本の財政問題とも深く関係しているのです。
昭和の時代にはそれなりの成果を上げてきたが・・・
URは日本住宅公団や宅地開発公団などを前身とする独立行政法人(独法)です。日本住宅公団は、住宅の取得が困難な労働者に良質な住宅を提供する目的で設立されたのですが、日本がまだ貧しかった昭和の時代には、住宅事情の改善にそれなりの成果を上げてきました。しかし、日本が豊かになり、十分な住宅が供給されるようになってからは、弊害の方が目立つようになっています。
最大の問題は、URが政府系という圧倒的に有利な立場を利用して高収益案件を多数手がけ、民間の事業を圧迫していることです。大規模複合施設や都市部の高級タワマンが、UR本来の仕事でないことは明らかでしょう。
URの資産総額は何と13兆円もあるのですが、URの自己資本はわずか1兆円程度しかなく、自己資本比率は7.7%ということになります。したがって開発に必要な資金はすべて借り入れでまかなっており、負債総額は11兆円を超えます。しかもそのほとんどは政府の財政融資資金から提供されています。
つまりURは政府丸抱えの借金マシーンなのですが、民間ではこうした状況で経営することは不可能です。不動産大手である三菱地所の総資産は約5兆円、自己資本は1兆6000億円ですから、自己資本比率は30%以上ということになり、URの4倍近くに達します。
日本政府は資産を持っているから大丈夫という話は本当か?
URはこれまで、これまで何度も民営化が議論されてきましたが、いまだに実現していません。URが民営化できないのは、関連省庁などの抵抗が激しいことも理由のひとつですが、あまりにも大き過ぎるという点も無視することはできません。
先ほど、URの自己資本は極めて薄いという話をしましたが、この状態で経営できるのは、政府と一体だからです。これを民営化した場合、保有する資産をすべて時価で評価し直さなければなりません。もし評価額が1割以上下回ることになった場合には、URは債務超過になってしまいます。
こうした問題は、実は、日本の財政と密接に関係しています。日本政府は1000兆円の借金を抱え、財政的に危険な状態にあると言われています。一方、日本政府は負債が多いものの、資産も保有しているので、それほど心配する必要はないとの意見もあります。
日本政府が資産をたくさん保有しているのは事実ですが、問題はその中身です。URに対する政府からの貸付けは政府が保有する資産の一部ということになります。
しかし、こうした独法や地方自治体、特殊法人などへの貸付けは、貸しっぱなしであることが大前提であり、現実にこれを回収することは困難です。政府の資産の中には、回収が難しい資産がたくさんあり、現実にどの程度の資産価値があるのかは微妙な状況なのです。
したがって日本の財政について議論する際には「負債が大きいから危険だ!」「資産があるから大丈夫だ!」といった水掛け論に終始するのではなく、保有する資産をしっかりと査定し、定量的にリスクについて把握すべきです。
基本的に筆者は、民間でできることを政府が行うことには反対する立場ですが、URのような組織のあり方を変えていくには、それなりに時間がかかるのも事実です。
今回、URという組織に注目が集まったことはよいきっかけですから、URの資産内容や政府の資産内容についてしっかりとした議論を行い、こうした政府組織をこれからどう扱っていくべきなのか。そして日本の財政はどうあるべきなのか、国民的な議論を深めていくことが重要でしょう。