フェイスブックCEO(最高経営責任者)であるマーク・ザッカーバーグ氏の寄付が大きな話題となっています。
妻とともに保有する同社株5兆5000億円を慈善活動に寄付するということなのですが、寄付する先は自らが経営する企業となっており、寄付になっていないのではないかとの声もあります。賛否両論ある同氏の巨額寄付行為ですが、お金というものの本質を考えるよいきっかけとなるでしょう。
ザッカーバーグ氏は自らが運営する会社に資産を移しているだけ?
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏と妻のプリシラ・チャン氏は2015年12月1日、自らが保有する同社株の99%を慈善活動に寄付すると発表しました。現在の株価で計算すると約450億ドル(約5兆5000億円)になります。
通常、寄付というと財産を設立して、そこに資産を移すという形が一般的です。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、財団を設立し、そこに自身の資産を寄付しています。ザッカーバーグ氏の場合には、寄付する先が自身が運営するLLC(有限責任会社)ですから、単に資産管理会社に名義を移しただけと解釈することも可能です。
多くの資産家が財団を設立するのは、基本的に税金対策です。財団という形にすれば、税金は免除されますが、その代わりに、一定金額を慈善事業に拠出することが義務付けられ、名義上、資産は自身のものではなくなります。財団に寄付し、その財団の運営に関わることで、間接的に資産を維持するというやり方です。ホンネではそうしたくないでしょうが、税金対策と社会的な名誉を考えると、トータルでは得をすると考えているわけです。
ところがザッカーバーグ氏は、財団という形を取りませんでした。LLCへの寄付ですから、自らの資産を別会社に移しただけとも解釈できます。当然、事業に対しては税金がかかりますので、節税メリットはないでしょう。それでもこうした形態を選択したのは、既存の慈善事業に対してザッカーバーグ氏が疑問を抱いているからだと言われています。
ザッカーバーグ氏はかつて個人的に学校などに寄付を行っていましたが、その結果はかなり悲惨なものでした。ある公立学校への寄付では、学校関係者が寄付金の争奪戦を演じ、寄付したお金が生徒の支援に回らないという事態となっていたそうです。こうした経験から、単にお金を配るだけでは意味が無く、企業経営の手法を導入しないと、慈善事業もうまくいかないと考えているようです。
長期的な視点で判断するしかない
このケースは最悪の部類に入るでしょうが、慈善事業の世界がかなりずさんであるのは事実です。
悪気はないのでしょうが、NPOの業務に従事する人の中には、ビジネス感覚に乏しい人もいて、必要な資財の購入などで仕入れ事業者と値引き交渉ができず、バカ高い価格で買わされているといったケースが散見されます。
ムダが多いことで、貴重な寄付金が本当に困っている人に行き渡らないという問題が常に発生するわけです。こうした状況を改善するための新しい組織が、夫妻が運営するLLC「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ」ということなのでしょう。
ビル・ゲイツ氏も同様の考え方を提唱しており、ゲイツ氏の財団も企業経営的な手法が導入されています。おそらくザッカーバーグ氏は、これをさらに先鋭化するため、あえて組織を企業形態にしたものと考えられます。
ただ、こうしたやり方については疑問の声も出ています。会社形態にすることで資金使途が限定されなくなりますから、政治家へのロビー活動などに多額の資金を投じるのではないかとの指摘もあります。またフェイスブックの直接的な支配権を失わず、慈善活動家としての名声も得たいという、いいとこ取りであるとう批判も出てくるでしょう。
また寄付は寄付でしかなく、寄付した先でお金がどう使われたのかについては資産家は過剰に介入すべきではないという意見もあります。よい意味で、使い方に介入する資産家ばかりとは限らないからです。
ザッカーバーグ氏の行為は、画期的な慈善活動への試みなのでしょうか? それとも単に個人的な野心を満たすための偽善的な活動なのでしょうか?
おそらく答は両方でしょう。資産を持つ起業家であれば、この両方を実現したいと考えるのはある意味で当然のことであり、これに対して、簡単に善し悪しを決めるのは難しいことです。また、人並み以上の野心を抱く人物でなければ、慈善事業の世界を改革することも難しいでしょう。
最終的には、夫妻が運営するLLCが、どのような結果を残したのかという部分で、夫妻の試みを評価していくよりほかありません。