経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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時給1500円を要求するデモから見えてくる光景

 ファストフード店などで働く人の賃金アップを求めるデモが東京など30都市で行われ、アルバイト店員をしている若者らが時給1500円の実現を訴えました。

 業務の最前線では、若年層を中心に人手不足が深刻化しており、アルバイト店員の時給は上昇傾向にあります。とはいうものの、現実には時給1000円程度というところが多く、1500円という金額はあまり現実的ではありません。この要求水準に対しては「要求が高すぎるのではないか?」といったコメントも寄せられているようです。

他国の物価水準はすでに日本に合わなくなっている
 要求水準が時給1500円となったのは、この運動がグローバルなものだからと考えられます。このデモは、ファストフード店の店員の時給拡大を訴える世界的な活動である「ファストフード世界同時アクション」に合わせて実施されたものです。

 この活動は、米国のファストフード労働者らが2012年にストライキを実施したことをきっかけに始まったもので、最低賃金として15ドルを求めるキャンペーンを世界各地で行っています。おそらく、1500円という数字は、この15ドルに合わせたものと思われます。

 今回の要求水準が高いのか安いのかはともかくとして、海外の価格に合わせたと思われる要求水準が日本人にとって高く感じるようになったということは、非常に憂慮すべき事態といえます。

 かつて日本の経済力は米国など他の先進国と同水準でしたから、他国の金額は、多少の感覚の違いはあるにせよ、そのまま日本にあてはめて考えることができました。しかし、日本経済の相対的な規模の縮小に伴い、ここ数年、海外の物価水準をそのまま国内に適用できないケースが増えてきているのです。

 週刊誌AERAが行った物価の国際比較では、約20万円となっている日本の大卒初任給に対して、米国やオーストラリアは40万円台と、2倍以上の開きが出ています。

 最低賃金も同様です。日本における最低賃金は、東京で869円、全国平均では764円となっています。
 これに対して、フランスや英国は1100円から1200円程度、最低賃金が最近導入されたドイツも約1200円です。米国は州によって異なりますが、平均すると950円程度になります。シアトルのように条例で最低賃金を1800円に設定しているところもあります。

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日本が閉じた国ならば問題はないが
 日本と他国の物価水準が違うと何が問題なの?と思う人もいるかもしれませんが、実はこれは大変重要なことなのです。日本が他国と貿易をしない閉じた国であれば何の問題ありませんが、日本は貿易によって国を成り立たせています。

 私たちがふだん口にする食品や洋服など、あらゆるものに輸入製品が関係しています。日本人の魂であるお米ですら、エネルギーがなければ一粒たりとも作れません。

 日本経済が横ばいになり、他国の経済が伸びることになってしまうと、日本人が外国から買うことができるモノの総額が減っていくことになります。要するに貧しくなっていくわけです。

 日本はこれまで20年間、経済を横ばいのままで放置してきました。この間に、諸外国は経済規模を1.5倍から2倍に拡大させています。このままでは、日本人の生活はさらに貧しいものになってしまうでしょう。今回の要求水準の妥当性とは関係なく、本来であれば、日本は時給1500円程度を普通に要求できる社会であるべきです。

 日本人は努力する国民といわれていますが、すでにそれは過去のイメージなのかもしれません。
 経済成長を実現するには、どうしても痛みを伴う改革が必要となるわけですが、わたしたちは、その議論から20年間、逃げ続けているように見えます。

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