2014年5月22日に行われた欧州議会選挙でちょっとした異変が起こっています。反EUや移民排斥などを主張する極右政党が大きく票を伸ばしたのです。以前からEUを疑問視する声はありましたが、このような形で顕在化したのは初めてのことです。
欧州の格差問題は解決されず
欧州議会の議席は全部で751議席あります。このうち、中道右派は214議席、中道左派は191議席を獲得しています。基本的には欧州議会は二大会派中心の体制ですので、今回の選挙結果で議会運営が劇的に変わるわけではありません。しかし、欧州各国は反EU派の議席が大幅に増えたことについて驚いています。
最大会派である欧州人民党は議席数を60も減らしており、その分がまるまる反EU派の議席に回っています。フランスでは、ルペン党首率いる極右政党「国民戦線」がもっとも多い票を獲得したほか、英国でもEUからの離脱を主張する「イギリス独立党」が躍進しました。ドイツでは何とネオナチ政党が議席を獲得しています。
欧州は債務危機問題が一段落し、景気は上向きかけています。しかし、インフレ率が思ったより上昇せず、失業率の問題はまったく改善されていません。
財政危機だったスペインでは依然として25%という高い水準の失業率が続いているほか、フランスも10.4%と高いままです。
一方、経済が好調なドイツやオーストリアは5%前後ですからほぼ完全雇用といってよい状況です。ドイツを中心とした経済が好調な地域と、南欧など経済が停滞している国の格差が解消されないのです。
経済が不調な国は、EUがドイツの言うことばかりを聞いて、各国に緊縮財政を強要していることが、経済がよくならない原因だと考えています。
一方ドイツは、自分達が稼いだお金が弱い国の救済にばかり使われていると感じています。イギリスもEUに参加するメリットがないと考えて始めています。
EU官僚の目的は各国政府を超えるEU政府を作ること
これらは「どっちもどっち」です。EUは必ずしもドイツの移行を受けて緊縮財政をしているわけではありません。
緊縮財政をやめてしまえば、財政危機を起こした国は、現在のような安定状態を維持することは不可能です。移民を排斥したところで、根本的な問題は解決しない可能性が高いと考えてよいでしょう。
ドイツはEU各国に支援もしていますが、それ以上に、EU各国から多大な経済的メリットを享受しています。英国もEUから脱退してしまった場合には、現在の地位が維持できる保障はないのです。
要するにEUは皆にとって悪口を言う対象になっているわけです。しかしながら、EUは一方的な被害者なのかというとそうではありません。
EUの官僚組織は日本の官僚組織並みに肥大化していて融通が利きません。ブリュッセルにいるEU官僚が、各国の実態もよく分からずにエラそうにいろいろと各国に指示している状況です。
EU官僚の最終的な目論見は、独自の財源を持ち、各国政府の上に、さらに上位のEU政府を作ることです。財源については、すでに一部が現実化しつつあり、EUによる統治は着々と進んでいます。
今回の選挙結果はこうした尊大なEU官僚達に対するノーなのかもしれません。