ECB(欧州中央銀行)がとうとう量的緩和策の導入を決断しました。ECBはギリギリまで量的緩和策の導入を避けてきたのですが、欧州の景気低迷が顕著になっていることから、伝家の宝刀を抜いたわけです。
米国はすでに量的緩和策を終了していますので、日本に加えて欧州が大規模な緩和に入ることになります。しかし、欧州の場合、その効果は限的的なものになるとの声もあります。
ユーロ圏という特殊な経済構造
ECBの理事会は2015年1月22日、量的緩和策の導入を決定しました。欧州経済のデフレ懸念が高まっていることから、国債の大量購入で市場に資金を供給します。
ECBの決定に基づき、各国中央銀行は、3月から国債を中心に毎月600億ユーロ(約8兆円)の資産買い取りを実施することになります。
期間は2016年9月までとなっていますが、2%の物価目標が達成できるまで緩和は続けるとしており、実質的に無期限の措置であると認識されています。
ECBが今回の理事会で緩和策の導入に踏み切ることは、ほぼ予想されてしましたから、市場はECBの決定を冷静に受け止めています。ただ、今回の量的緩和策については、十分な効果を得ることが難しいという見方が少なくありません。
その理由はユーロ圏という独特の経済構造に起因しています。
ユーロ圏はドイツのような優等生とギリシャような財政的に苦しい国が一つの通貨で同居しています。本来、経済状態がよくない国の通貨は安くなり、最終的には購買力の低下という形でバランスが取れるわけですが、ユーロ圏の場合にはそうはいきません。
低迷国には通貨安という問題解決手段がありませんから、ドイツのような国が、低迷国に対して支援を行わないと、全体のバランスが取れなくなってしまいます。
しかしドイツ国民にもこうした支援に対して違和感がありますし、一方の支援される側も、ドイツからあれこれ命令されることを好ましく思っていません。
こういった状況は、ECBの量的緩和策にも影響を与えます。
欧州の問題は構造的要因
今回の量的緩和策は、基本的に各国の中央銀行がそれぞれ国債を購入する形となります。しかも、どの国の国債を購入するのかという購入比率については、あらかじめECBへの出資比率で決められています。
結果的にドイツの国債を購入する割合が高くなるわけですが、優良資産であるドイツの国債ばかり買っても効果は限定的でしょう。
また、損失が発生した際の穴埋めについても、ECBが2割負担しますが、残りの8割は各国がリスクを負う形となっています。
ドイツのような優良国は、そうでない国のリスクまで負いたくないですから、結果的にこのようなスキームに落ち着いたわけです。
緩和策の規模も実はあまり大きなものではありません。
日銀の量的緩和策では、年間約80兆円の資金を供給しているのですが、ECBも日銀とほぼ同程度の資金量です。ユーロ圏全体では経済規模が日本の3倍近くありますから、相対的な資金供給量は日本と比べて小さいということになります。
また欧州の景気低迷の原因が、リーマンショック後の米国とはかなり異なっている点も気になるところです。
欧州は政府の規制が多く、これが経済の活性化を妨げている面があります。また労働組合や政府系企業の影響力が強く、いわゆる既得権益を持った人がたくさんいます。
単に、資金のめぐりが悪いことで不景気になっているのではなく、構造的な問題によって景気低迷が長引いている可能性が高いのです(この点では日本と共通する部分があります)。このため、量的緩和をはじめとする金融政策を実施しても、米国ほどの効果を上げられない可能性が高いのです。
とはいえ、何もしないよりは、緩和策を実施した方が効果があることは間違いありません。ただ、日本と同様、緩和策を導入したものの、思った程物価が上がらないという状況が続く可能性があります。欧州の景気低迷は長引くと思った方がよさそうです。