スイスでビックリするような国民投票が行われました。何と最低賃金を22スイスフラン(約2500円)にするというものです。結果は圧倒的多数で否決だったのですが、その理由は非現実的だからというものではありません。
スイスでは時給2500円が当たり前
今回の国民投票は、緑の党や社会党など左派勢力が中心になって呼びかけたもので、その主題は格差是正にあるようです。2500円という金額設定に、政治的パフォーマンスと思った人も多いようです。
しかし、状況は少し違うようです。スイスでも格差問題は議論されていますが、スイスは世界でもっとも豊かな国の一つです。スイスには最低賃金の制度はないのですが、多くの労働者がすでに時給2500円以上を得ているというのです。
スイスは金融と高付加価値製造業が主力産業となっており、非常に豊かなことで知られています。スイスの一人当たりのGDPは約8万1000ドルで、何と日本の2倍以上もあります。多くの労働者が2500円以上の時給を得ていても決しておかしくありません。
現在、全世界的に最低賃金の見直しが議論されています。米国ではオバマ政権が最低賃金の引き上げに言及してしますし、これまで最低賃金がなかったドイツでも、来年から時給8.5ユーロ(約1175円)の最低賃金が導入されます。
日本でも生活保護との逆転現象から最低賃金の引き上げが行われましたが、諸外国と比べると日本の最低賃金の低さは際立っています。
最低賃金がなくても本来は大丈夫なはず
東京での最低賃金は時給869円ですが、最も安い地域では664円となっています。フランスの最低賃金は9.43ユーロ(約1331円)、英国は6.31ポンド(約1065円)、米国は州によって異なりますが、各州を平均するとだいたい8ドル(約810円)程度になります。
最低賃金がないと労働者の賃金は限りなく低くなるのかというとそうではありません。今回のスイスもそうですし、最低賃金がなかったドイツでも、低賃金労働の相場は6ユーロ(約830円)前後でしたから、日本の最低賃金より高い水準です。
要するに市場経済のメカニズムがしっかりと回っていれば、最低賃金がなくても、労働者の賃金はある程度の水準にとどまるものなのです。
そういった点で考えると、日本の最低賃金が諸外国に比べて極めて低い水準にあるのは少々問題です。最低賃金を設定するということは、そのままにしておくと、それ以下の労働が横行しかねない環境が存在するということを意味しています。
現在の日本において、時給600円以下で働くことは労働者にとってメリットがほとんどなく、経済合理性に反します。それでも、600円台より低い金額の労働が成立してしまうというのが現実であれば、それは、日本経済の市場メカニズムそのものに欠陥がある可能性が高いのです。
もしそうだとすると、日本はもはや市場経済の国ではなくなっているのかもしれません。