自民、公明の与党両党は2014年12月30日、2015年度税制改正大綱を決定しました。税制改正大綱は次年度の税制をどのようにしたいのかという党の方針を示すものですが、実際には、その内容が、次年度の法改正として具現化することになるため、非常に重要視されています。
税金のあり方は、その国の政治のあり方を素直に反映します。これを読めば、日本の政治がどのような方向に向かっているのか明確に知ることができます。
税制で子供への資産移転を促進
今回の税制改正大綱の目玉は法人税改革であり、最終的には法人税の3.29%の引き下げが明記されました。多くのニュースではこちらが取り上げられており、個人に対する課税についてはあまり触れられていません。
しかし、個人に対する税制でも、今回の大綱ではかなりはっきりした傾向が見られました。それは富の世代間移転の促進です。
日本は世代間で富の分布が大きく偏っています。日本の金融資産のうち約8割が60歳以上の高齢者によって占められています。高齢者は積極的にお金を使いませんから、豊かな高齢者の増加は経済を低迷させる要因となってしまいます。
今回の大綱では、資産を持つ高齢者が、若い世代に資産を移転させることを促進する内容が目立っています。
これまでも、子や孫の住宅購入に対して、親や祖父母が資金援助する際、最大1000万円までを非課税とする制度がありました。今回の大綱には、これを2019年まで延長することが盛り込まれました。特に2016年からの1年間は最大3000万円に拡大し、子や孫の住宅購入を支援します。
また、結婚や子育ての費用についても1000万円を上限とする新しい非課税制度を作ったほか、株式投資から得られる利益や配当について5年間非課税とする「少額投資非課税制度」(NISA)の子供版を設けました。とにかく、自分の子供や孫のためにお金を使わせ、経済を活性化しようというわけです。
お金を持っている家の子供だけが得してしまう可能性も
かわいい孫にお金をプレゼントすると非課税になるわけですから、お金を持っている高齢者はそれなりに支出を増やすと考えられます。とにかくお金が回っていないという現状を考えると、効果的な制度なのかもしれません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
お金を持っている高齢者にお金を使わせるのはいいのですが、優遇税制の対象が、基本的に自分の子や孫へのプレゼントに限定されているという点です。
経済的に見れば誰がお金を使っても同じ効果が得られるわけですが、社会的に考えると、そうではありません。
自分の子供や孫に限定されているということは、この制度の下では、お金を持っている人の子供や孫だけが得をすることになります。親の資産の有無によって、住宅や教育に格差が付くことになるため、長期的に見るとあまりいい影響を及ぼしません。
政府はこのあたりについてもよく承知していますし、わざわざ格差を助長するような政策を取るメリットも実はありません。しかし、お金が動かないという日本経済の問題はかなり深刻化しており、自分の子や孫が得するという制度にでもしなければ、お金が動かなくなっているのです。
お金は天下の回り物回り物ですから、稼ぐ人にはどんどん稼いでもらって、稼いだお金はどんどん使ってもらうのが理想的です。
本来であれば、資金使途が自分の子供であろうが、なかろうが、お金を使わないと損をするような税制が望ましいのですが、現在の日本では、それを望むのは難しいことなのかもしれません。