米国からちょっと驚くニュースが入ってきました。オバマ政権の重要な閣僚の一人であったヘーゲル国防長官が辞任を表明してしまったのです。
オバマ政権は任期が残り少なくなっており、機能不全を起こしつつあるといわれていますが、今回の辞任でその傾向がさらに顕著になるかもしれません。沖縄の基地問題が微妙な時期だけに、日米関係にも影響がありそうです。
オバマ政権は実はかなり大がかりな改革を進めている
オバマ大統領は2014年11月24日、ヘーゲル国防長官が辞任すると発表しました。オバマ氏とヘーゲル氏は一緒に記者会見に臨んだのですが、お互いを称え合うタテマエ的な内容に終始し、辞任の理由は明確にしませんでした。
米国の報道を見ると、辞任の原因は、シリア問題をめぐる意見対立とみられ、事実上の更迭と見なされているようです。
ヘーゲル国防長官はオバマ政権の中での極めて重要な人物の一人です。
日本ではあまり大きく報道されていませんが、オバマ大統領は、従来の米国の軍事戦略を根本的にひっくり返すほどの、かなり大がかりな改革を進めています。それは、軍事力のアジア・シフトと、それに伴う国防予算の大幅な削減です。
米国はシェールガスの開発が進み、近い将来、すべてのエネルギーを自給できるようになります。これまで米国は中東から大量の石油を輸入していたのですが、今度は米国が世界最大の産油国に生まれ変わろうとしているのです。これは地政学的にも経済的にも、極めて大きなインパクトをもたらします。
米国はこれまでイラク戦争をはじめとして、中東に対して露骨に軍事力の行使を続けてきました。世界の警察官として振る舞いたい米国人の気質というものもあるかもしれませんが、米国がこれほどの軍事力を中東に投じるのはやはり石油の安定供給という目的があったからです(もともと米国は引き込もり傾向が強く、国際問題に積極的に口を出すようになったのは戦後のことです)。
しかし石油という重荷がなくなりつつある今、相対的に中東の重要性は低くなりました。代わりに重要度を増しているのが中国との関係です。
しかし旧ソ連と異なり、中国は米国にとって敵国ではありません。交渉しビジネスをする相手ですから、中国に対しては、限定的な軍事力があればよいとオバマ政権は考えています。
この結果、オバマ政権は、中東から軍事力をアジアにシフトすると同時に、大規模な軍事費の削減を行い、財政を急ピッチで立て直しているのです。
しかしながら、こうした動きに対しては、リストラ対象となる軍や、そこでビジネスをしている軍需企業からの激しい抵抗があります。
軍人からの信頼を確保しつつ、軍事力のアジア・シフトと国防予算の大幅削減をやり切ることができる国防長官はそうそういません。そこで白羽の矢が立ったのがヘーゲル氏だったわけです。
新しい国防長官と意思の疎通を図るまでには時間が必要
ヘーゲル氏は、オバマ政権の安全保障チームでは唯一の共和党員です。共和党員ながら個人的にオバマ大統領に近く、個人的に突っ込んだ話ができるといわれてきました。しかも、上院議員を2期12年務めた経験があり、政界の大物でもあります。
もともとは軍人出身ですから、軍に対しても十分な発言力がありますし、一方で、イラク戦争の実施やイラン制裁に反対するなど、信念を持った人でもあり、民主党からの信頼も厚いといわれています。
大幅な軍事費の削減やアジア太平洋へのシフトについては、共和党内に反対意見が多く、共和党と民主党の両方にパイプがあるヘーゲル氏は、オバマ政権にとって非常に重要な人材だったわけです。実際、ヘーゲル氏は、各方面との調整を積極的に行い、軍事力のアジア・シフトと予算削減という大仕事を順調に進めていた最中でした。
それゆえに今回の辞任は米国の政界に大きな衝撃を与えています。米国の報道によると、直接の原因はシリア問題のようです。国防総省は、シリアへの軍事介入の必要性を主張しましたが、ホワイトハウスはこれに消極的で、ヘーゲル氏も一度は断念したといわれています。
しかし、ホワイトハウスの安全保障担当のライス大統領補佐官がオバマ大統領に限定空爆を進言し、ヘーゲル氏と十分に調整せずにこれを発表してしまいました。ヘーゲル氏はライス氏に「これでは政策の整合性が取れない」と苦言を呈しており、オバマ大統領との溝もここで生まれてしまったとのことです。
オバマ大統領は、自分に忠実な人物を国防長官に据える方針と思われますが、巨大官庁である国防総省を手なずけるのは容易ではありません。オバマ政権は任期が残り少なくなっており、レームダック(任期終了が見えてきて、指導力を発揮できない状況)化が進んでいるといわれます。
大物閣僚であったヘーゲル氏の辞任によって、オバマ政権の機能不全がさらに加速する可能性が高まってきたと考えるべきでしょう。しかしレームダックといっても任期はまだ2年もありますから、日本など同盟国にとってはなかなか大変です。
新しい国防長官と十分な意思疎通を図るまでにはある程度の時間が必要となります。沖縄の基地移転など微妙な問題がありますから、日本の外交政策にも影響が出てくるかもしれません。