台風15号で被害が拡大したのは、インフラ劣化が原因という話の虚実

 台風15号によって、千葉県が想定外の被害を受けたことから、公共インフラの整備や自治体の対応などについて様々な意見が出ています。一部からは日本経済の低迷によってインフラ投資が脆弱になっているとの指摘もありますが、実際はどうなのでしょうか。

日本全体の減価償却費は減少している

 2019年9月9日に首都圏を直撃した台風15号は、千葉県に大きな被害をもたらしました。停電の影響で、固定電話、インターネット、携帯電話のすべてが使用不能となった地域も多く、当初は、被災状況の把握すらままならい状況でした。
 大規模停電が発生した直接的な原因は、君津市にある送電線の鉄塔2基が倒壊したことですが、千葉県全域で、電柱の損傷、倒木による電線の切断、道路の寸断など、同時多発的に障害が発生したことから、状況が一気に複雑になりました。

 こうした中、阪神・淡路大震災の被災経験もある哲学者の内田樹氏がツイッターで「テクノロジーも進歩しているはずなのになぜ支援体制が進化していないでしょうか」と現状に疑問を呈し、「最大の理由は日本が貧乏になったから」ではないかと主張したことから、ネット上では賛否両論となっています。

 現段階において、想定外の被害を招いたことが「日本の貧しさ」と直接関係しているのかは分かりませんが、日本のインフラ投資が減少している可能性は否定できません。日本経済新聞によると、東京電力は1991年には送配電設備に年間約9000億円を投じていたが、2015年には約2000億円にまで減少しているそうです。

 これは東京電力という個別企業の話ですが、日本全体でも似たような傾向が見て取れます。

 日本企業全体における2018年度の減価償却費は約38兆円となっており、リーマンショック前の2008年と比較すると13%以上も減少しています。金額の多寡だけで判断することはできませんが、企業全体の設備投資が大幅に抑制されているにもかかわらず、インフラ投資だけが拡大するという事態は考えにくいですから、この数字は、投資抑制を示す一つの材料であることは確かでしょう。

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質と量、両面からの検証が必要

 もっとも、金額が減っているからといって、インフラ投資が貧弱化していると即断することはできません。その理由は、インフラ投資には様々なパターンがあり、単純な比較が難しいからです。

 企業が何らかの理由でコスト削減を迫られ、インフラ投資もその対象となった場合、新規の設備投資をいきなり中止するという方法は選択しません。たいていの場合、既存インフラにおける更新頻度の延長から手をつけていきます。

 たいていの設備は余裕を持たせて作ってあるので、10年で更新する設備でも、場合によっては、15年など、期間を延長して使用できます。こうすることで、平均的な設備投資金額を抑制できるわけです。近年はITを活用し、センサーを用いてリアルタイム監視することで、リスクが高いと判定されるまで使用を継続するというやり方も普及しつつあります。

 こうしたコスト削減に関する評価が難しいのは、ITを使った省力化や更新頻度の延長といった措置が必ずしも「悪いこと」とは限らないからです。
 古いままのやり方を踏襲していれば、確かに金額は維持されるかもしれませんが、維持管理の質が向上しているとは限りません。一方、IT化によってコスト削減を実現したと思っていても、実質的には単なるコスト削減と品質低下にしかなっていない可能性もあります。インフラの質を判定するためには、多くの情報を公開し、多方面から検証を加えないと正しい結論は得られいのです。

 今回の災害が「貧しさ」から来ているのかは分かりませんが、日本企業全体としては、売上高がほとんど伸びていないにもかかわらず、利益に対する要求は強まっている状況です。企業が安易なコスト削減に走りやすい状況であることは間違いなく、可能性としては十分にあり得ると考えるべきでしょう。この問題については、情報の透明化を進め、丁寧に議論していくしか解決の方法はありません。