経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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ソニーがアップルになれなかった理由

 ソニーは2015年3月期の業績見通しについて、連結純損失が当初予想の500億円から2300億円に拡大すると発表しました。スマホ事業の収益悪化が予想以上に進み、減損処理が必要になったことが主な要因です。

立場が180度変わってしまったソニー
 電機大手の中でソニーだけが業績低迷に歯止めがかからない状態になっているわけですが、その理由はソニーだけが、主力商品での大ヒットを狙うという従来型のビジネスモデルをいまだに追求しているからです。

 ソニーは、パソコン部門をファンドに売却し、テレビ部門は分社化を行いました。逆にスマホ事業は本体に取り込み、エレキ再生の中核と位置付けたのですが、これか完全に裏目に出ています。

 一方、ライバルのパナソニックは、不採算な商品を次々に切り捨て、目玉商品がない状況にまでなったものの、各部門でコツコツと利益を積み上げ、3期ぶりの黒字転換を果たしています。
 また一足先に復活した日立は、ある意味で相互にまったく関連しない事業を寄せ集めたような会社であり、逆にこれが功を奏しています。

 つまり日本メーカーは、大きな利益を狙える経営環境にはもはやなく、地道に利益を積み上げるという、身の丈にあった経営を行う必要があるわけです。

 現在、ソニーがこれほどまでに苦戦している状況を見ると、90年代にソニーが持っていた潜在力との落差に愕然としてしまいます。

 あまり意識されていませんが、1990年代後半から2000年代前半にかけて、現在のアップルのような位置付けとなる会社はソニーであると、全世界のマーケットが認識していました。

 アップルは、iMacでパソコンの家電化に成功し、iTuneで音楽配信に先鞭をつけました。
 iTuneのサービスは、現在、スマホ上で提供されるあらゆるサービスの原点ともいえるもので、このサービスがあったからこそ、アップルは世界市場で圧倒的な存在感を示す現在の立場になれたわけです。つまりアップルのキモはiPhoneではなく、むしろiTuneと考えるべきなのです。

sony

要素技術を争っても意味がない
 当時、ネット上でコンテンツを配信するサービスを実現すれば、とてつもない企業になれることは多くの関係者が認識していました。
 しかし、現在のアップルのような会社を実現するためには、優れたハードウェアの製造、コンテンツの配信、ブランド力など、あらゆるリソースが必要となります。

 当時、単なるパソコン・メーカーであるアップルにそれが実現できるとは誰も思っていませんでした。もしそうした途方もないことを実現できる企業があるとすると、それはソニーだと考えられていたのです。

 ソニーはもともと電機メーカーでウォークマンのような世界的ヒット商品がありますから、優れた機器を製造できるのは当然のことです。またソニーは電機メーカーで唯一、世界で通用するコンテンツ会社を保有していました。さらにVAIOの投入でパソコンの家電化にも成功しています。

 これらのリソースを組み合わせれば、音楽配信をきっかけに高性能なスマホ開発という現在のアップルのビジネスモデルが実現できたはずです。

 しかし現実にこうしたビジネスモデルを実現したのは、コンテンツを所有していない、単なるパソコン・メーカーに過ぎなかったアップルだったわけです。

 おそらくソニーの社内では、音楽や映画をネットで配信してしまうと、せっかくCDやDVDが高く売れているのに、その利益を減らしてしまうのではないかといった、セクショナリズムがあったと考えられます。

 ソニーがコンテンツの配信に手間取っている間に、なぜかアップルのジョブズ氏が、コンテンツ業界を説得し、iTuneでの配信を決めてしまったわけです。勝負はこの時点で付いてしまったと考えるべきでしょう。

 ソニーは当初、iTuneへのコンテンツ提供を拒んでいましたが、iTuneがスタンダードになると、とうとう当初の方針を撤回し、iTuneへ配信するという屈辱的な展開になったわけです。

 こうした一連の事例は、どんなに立派な要素技術や個別のリソースを持っていても、それをインテグレートすることができなければ何の意味もないということを如実に表しています。

 しかし、日本の産業界はこの期に及んでも、まだ要素技術や個別リソースの優劣にしか関心がないようです。これでは、本来競争相手などではないはずの、韓国メーカーや中国メーカーと価格競争をしなければならないのも当然のことなのです。

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