経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. ビジネス

自動車メーカーの業績がいよいよ悪くなってきた

 自動車メーカー各社の業績が悪化してきました。ドル箱と言われた北米市場は飽和状態となっており、米中貿易摩擦の影響も深刻化しています。これに加えて自動車業界には100年に1度のパラダイムシフトが迫りつつあります。今回の業績悪化は、嵐の前触れといってよいかもしれません。

経営体制をめぐるゴタゴタの間に業績が悪化

 業績が特に落ち込んだのは経営権をめぐってゴタゴタが続く日産自動車です。同社の2019年3月期の決算は営業利益が44.6%減の3182億円となり、親会社であるルノーを下回りました。2020年3月期はさらに業績が落ち込みむ見通しで、これは2010年3月期以来の低水準になりそうです。

 前会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕をきっかけに、同社では会長ポストやルノーとの統合をめぐって混乱が続いていますが、経営陣が内紛に終始している間に同社の業績はみるみる下がってしまいました。

 業績悪化の直接的な原因は北米での販売台数が大きく落ち込んだことです。世界の自動車メーカーは、絶好調だった北米市場に依存してきましたが、最近は販売奨励金を積み増さないと台数が伸びなくなっていました。日産は特に奨励金への依存度が高く、これが逆風となりました。

 ホンダの業績も悪化しています。売上高こそ前年比3.4%のプラスでしたが、営業利益は12.9%減の7263億円にとどまりました。日産ほどではないとの印象ですが、今回の業績は好調な二輪が牽引したものであり、主力事業である四輪の業績は大きく落ち込んでいます。

 四輪の営業利益は実は二輪を下回っており、四半期ベースで赤字になる期もありました。四輪事業の不振はやはり北米市場の伸び悩みが原因です。

日産自動車ホームページより

日産自動車ホームページより

100年に一度のパラダイムシフト

 国内最大手のトヨタ自動車は、売上高が前年比2.9%増、営業利益も2.8%増で何とかプラス成長を維持しました。しかしながら、主力の北米市場で苦戦しているのは同じで、北米の販売台数は前年をわずかに下回っています。

 頼みの北米市場の失速で各社の経営陣は厳しい表情ですが、実はもっと憂鬱な問題があります。それは自動車業界に迫りつつある100年に1度のパラダイムシフトです。

 今後、自動車業界は、EV(電気自動車)へのシフトやシェアリング・エコノミーの進展によって、産業構造が激変するといわれています。

 ガソリン車を中心とした時代においては、多数の部品メーカーを傘下に持ち、垂直統合システムを形成することにメリットがありましたが、部品の汎用化とオープン化、IT化が進むEV時代においては、水平統合システムの方が圧倒的に有利になります。自動車メーカーのほとんどは垂直統合システムですから、近い将来、抜本的なサプライチェーンの再構築が求められるわけです。

 水平分業の産業構造ではコストは極限まで下がる可能性が高く、自動車の販売価格は安くならざるを得ないでしょう。そうなると規模のメリットが極めて重要となり、上位グループに入れないメーカーは淘汰されるリスクが高まってきます。今後、業績がよくないメーカーは業界再編の格好のターゲットとなるでしょう。

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