経済界首脳の発言で、いよいよ終身雇用が終焉へ

 経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長など、経済界の要人が相次いで終身雇用の見直しについて言及しています。終身雇用制度が限界に達していることは誰の目にも明らかでしたが、これまで正社員の雇用は「聖域」とされ、半ばタブー視されていました。

 財界トップがこの話題に触れるのは従来の常識では考えられないことであり、それだけ企業が置かれた状況が深刻であることを示しています。

終身雇用は日本の伝統ではない

 日本企業に勤めるサラリーマンの給料は過去10年、ほとんど上がっていませんから、多くの人は企業が人件費をカットしていると考えているかもしれません。しかし現実は違います。

 日本企業全体の売上高は、過去10年間、ほぼ横ばいで推移してきたのですが、総人件費は増大する一方でした。
 社員の給与が上がっていないにもかかわらず総人件費が増えているのは、企業が社員数を増やしているからです。日本は人手不足が深刻といわれていますが、それは小売や外食、介護など現場を抱える特定業種の話であって、ホワイトカラーを中心に大量の余剰人員を抱えているのが現実なのです。

 市場は時代と共に変化しますから、企業が変化に対応するためには、常に新しい人材が必要となります。新規事業のたびに企業は中途採用で新しい人材を入社させていますが、日本企業は終身雇用が前提ですから、スキルが合わなくなった社員をそのまま抱え込むしか選択肢がありません。この結果、社員の総数だけが増えていくことになります。

 これに加えて、日本企業の人事制度は基本的に年功序列であり、若い社員だけが現場の仕事を担う仕組みです。このため現場を離れた大量の中高年社員が在籍する一方、現場を回すために常に一定数以上の新卒社員を採用する必要があり、これが社員数の増大に拍車をかけています。

トヨタ自動車ホームページより

トヨタ自動車ホームページより

日本型雇用というのは幻想に過ぎない

 多くの人は終身雇用制度は日本の伝統だと思っているかもしれませんがそれは違います。終身雇用制度や元請け下請けという重層的な産業構造は、戦争遂行のため国家総動員法の施行とほぼ同じタイミングで導入されたもので、昔から日本がそうだったわけではありません。戦前の日本社会では転職は当たり前でしたし、下請け企業もドライで、条件が悪いとすぐに取引先を変えていました。

 集団主義的な戦時体制が、戦後の大量生産にうまくマッチしたことから、戦後になっても制度が継続したというのが実態といってよいでしょう(経済学者の野口悠紀雄氏は一連の仕組みについて1940年体制と呼んでいます)。

 政府は高齢化と公的年金の財政悪化に対応するため、現在65歳までとなっている企業の雇用義務を70歳まで延長し、事実上の生涯雇用制度へのシフトを目論んでいます。表面的には終身雇用を維持する制度ですが、実質的には逆の作用をもたらすでしょう。

 企業は定年延長に大きな危機感を抱いており、一定以上の年齢に達した段階で主要ポストに就いていない社員を管理職から外す、いわゆる役職定年の強化に乗り出していますし、定年後の再雇用においても、給料を大幅に下げケースが続出しています。

 定年後、同じ会社に雇用されたとしても、場合によってはグループ内の派遣会社の社員となり、まったく別の会社に派遣されるという可能性もゼロではないのです。そうなってくると、書類上は同じ会社に勤務しているものの、事実上、転職していることと同じになります。

 このシステムは本質的に意味がなく、早晩、維持が難しくなるでしょう。結果的に、中高年の転職市場が拡大することで終身雇用制度が崩壊。年功序列の人事システムや、新卒一括採用なども消滅するでしょう。賃金も同一労働、同一賃金に収束することになり、正社員と非正規社員の格差も縮小に向かって動き出すはずです。

 長い時間がかかりましたが、結局のところ、日本企業の雇用も、諸外国と同じ制度になるだけの話であり、日本型雇用など、そもそも存在していなかったと考えた方が自然なのです。