経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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水道民営化、賛成vs反対の二元論は意味がない

 水道事業の民営化を可能にする「改正水道法」が2018年12月6日、衆院本会議で可決、成立しました。水道事業の民営化をめぐっては、一部から激しい批判が出ていますが、今回の法改正の背景にあるのは、継続が困難になっている水道事業をどうするのかという深刻な問題です。民営化に賛成、反対という二元論ではなく、もっと本質的な議論が必要です。

日本の水道事業は危機的な状況

 日本の水道事業は、水道法によって原則として市町村が運営すると定められていますが、自治体が運営する水道事業の中には、財政的に厳しい状況に追い込まれているところが少なくありません。人口減少が進んでいることに加え、家電の性能向上などから、1人あたりの水使用量が減ったことが主な原因です。

 このままでは収益を確保できず、設備の老朽化に対応できなくなる可能性が指摘されています。改正水道法はこうした事態に対処するためのもので、水道事業の広域連携と民営化が柱となっています。

 広域連携は、複数の自治体で水道事業を一本化し、運営コストを引き下げるというものです。一見するとそれほど難しいようには思えませんが、実はそうでもないのです。

 意外と知らない人も多いのですが、市町村ごとに水道の料金にはかなりの違いがあります。同じ東京都でも23区の場合、10立方メートル(口径13mm)あたりの水道料金は1080円ですが、昭島市は480円と半額以下です(利用条件によってかわります)。一方、さらに料金が高い自治体では東京23区の2倍というところもあります。

 水道料金にこれほどの違いがあるのは、給水人口や水源の違いなどによってコストが異なるからですが、これが事業の広域連携を難しくしています。
 料金が安い自治体の住民は、統合で料金が上がることを簡単には承諾しないからです。改正法では広域連携をスムーズに進めるための協議会設置などが盛り込まれましたが、どの程度、効果を発揮するのかは何とも言えません。

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公営のままでも結局は同じような状況に

 一方、民営化は公営をやめてしまって民間に事業を委ねるという方法で、今回の改正法で想定されているのは「コンセッション方式」と呼ばれる形態です。

 この方式は自治体が施設を所有したまま、運営権だけを民間に売却するというもので、運営権を購入した企業は、民間のノウハウを活用し、低コストで事業を運営します。自治体は水道に関する支出がなくなりますから財政負担が軽くなるほか、運営権の売却代金を負債の返済に回すことができます。

 水道民営化については、水道インフラが民間に売却されるとの誤解があり、一部、メディアもそうしたトーンで報道を行っていますが、売却されるのは運営権だけで、水道そのものが民間の手に渡ってしまうわけではありません。しかしながら、料金の決定は民間が行う可能性が高く、一部の自治体では料金が跳ね上がるといった問題が発生するかもしれません。

 しかしながら、今のまま公営を続けたとしても、収支が厳しい自治体は、結局のところサービスの低下、もしくは料金高騰という問題に直面することになります。つまり民営化してもしなくても、状況は大きく変わらない可能性が高く、民営化はあくまで運営手法のひとつに過ぎないことを理解しておく必要があります。

 水道は、人々の命にかかわる基本インフラですから、本来は、コストをかけて維持すべきものであり、国民には相応の負担が求められます。今回の法改正をきっかけに、今後の水道事業をどう維持していくべきなのか、国民的な議論を始めることが重要でしょう。

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