経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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個人消費が急激に落ち込んでいる

 このところ個人消費の勢いが急激に低下しています。エコノミストは駆け込み需要の反動が長引いているという解説をしていますが、事態はもう少し深刻です。確かに直接的な原因は消費増税ですが、その背景には、実質賃金の低下という根本的な問題が横たわっている可能性があります。

各指標が軒並み低迷
 日本チェーンストア協会が発表した7月の全国スーパー売上高は、前年同月比2.1%減と4カ月連続のマイナスでした。比較的高額商品が多い百貨店も同じ傾向となっています。日本百貨店協会が発表した7月の全国百貨店売上高も前年同月比2.5%減で、こちらも4カ月連続のマイナスでした。

 白物家電など高額商品の落ち込みはさらに大きなものになっています。日本電機工業会が発表した7月の白物家電の国内出荷額は前年同月比で15.9%減という大幅なマイナスでした。マイナスになるのは3カ月連続。落ち込み幅が15%を超えるのは2年8カ月ぶりのことです。

 個人消費が大幅に落ち込んでいるのは、消費増税の駆け込み需要に対する反動であることは間違いありません。しかし、問題はこのような駆け込み需要と反動減が生じている理由です。

 というのも、日本では過去2回、消費税の増税を経験していますが、このような激しい駆け込み需要と反動減はこれまで経験したことがないからです。

 確かに消費税の増税前に商品を買いだめしておけば、多少の得になります。しかし、日用品はこれからもずっと買い続けるものですし、備蓄するにも限度があります。消費者にとって、駆け込みで買い込むメリットはあまり多くありません。

 諸外国では、ここまでの駆け込みは見られないのが普通ですし、実際、過去の日本ではそのようなことはありませんでした。

 それにも関わらず、今回、かなりの駆け込み需要が発生しているということは、日本の家計がかなり弱体化していることが想像されます。端的に言えば、消費者が貧しくなっており、不安心理からちょっとしたパニックを起こしているわけです。

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実質賃金は確実に下がっている
 今年の春闘は大企業を中心に賃上げが実現しましたが、日本全体で見ると賃金は上がっていません。その理由は物価の上昇と非正規社員の増加です。

 安倍政権は量的緩和策によって意図的に物価を上昇させ、期待インフレ率を高めようとしています。これがうまく作用すればよいのですが、うまく機能しない場合には、物価だけが上がって景気が回復しないという状態に陥る恐れがあります。

 確かに一部の企業は賃上げを実施しましたが、地方の中小企業では賃上げする体力がないところがほとんどです。賃金上昇よりも物価上昇のペースが早く、購買力が低下している可能性があります。

 それでも賃金は上がっているのだから、家計は多少豊かになるのではないか?そう考える人も多いでしょう。しかし日本全体で見るとそのような状況にはなっていないのが現実です。

 それは賃金の安い非正規社員が増加しているからです。確かに正規社員の賃金は増加傾向にありますが、一方で、正社員から賃金の安い非正規社員へのシフトが続いており、全体の給料を引き下げているわけです。

 これは全員を正社員にすれば解決するという問題ではありません。企業が従業員に支払う原資には限りがあり、全員を正社員にしてしまえば、平均給与が大幅に下がってしまうからです。

 根本的にこの問題を解決するのは、硬直化した労働市場を改革する意外に方法はないでしょう。ただ、労働市場をいきなり流動化すれば、大きな混乱が生じてしまいます。時間をかけて労働力の最適配分を進め、生産性の向上と賃金の上昇に結びつけていくことが重要でしょう。

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