経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. トピックス

シティバンク撤退が意味すること

 シティグループが国内の個人向け銀行業務を売却する方針であることが明らかになりました。同行は明治時代に日本に進出した歴史のある外資系銀行です。シティの撤退は、日本の金融市場の大きな転換点となるかもしれません。

撤退の本当の理由は日本市場の見切り?
 同校が日本から撤退する直接の理由は低金利による収益の悪化です。邦銀と異なり、米国の銀行は収益に占める手数料収入の割合が高いという特徴があります。このため外銀が求める収益率は日本よりもはるかに高い水準になります。

 日本は異常な低金利ですから、基本的に融資では儲かりません。シティでは住宅ローンも提供していましたが、収益はたかが知れていたでしょう。
 また海外送金など日常的な業務から得られる収入にも限度があります。そうなってくると、高い手数料を取って金融商品を顧客に提供するというビジネスが中心となってきます。

 しかし、ここにおいても低金利が邪魔をします。今の日本で高い利回りの金融商品をアレンジするには、顧客に過剰なリスクを負わせるしかありません。
 実際、同行は投資信託を無理に顧客に販売し、金融庁から業務停止命令を受けたこともあります。やはりまっとうな手段ではグローバル水準の利益は確保できなかったものと考えられます。

 しかし100年以上の歴史を持つ同行が、日本から撤退するというのは、それだけが理由ではないと考えられます。やはりそこには、日本の金融市場の地位が著しく低下しているという現実があると考えるのが自然でしょう。

 日本は中国に抜かれたとはいえ、世界で3番目の経済大国です。しかも東京市場は、本来であれば、ニューヨークやロンドンと並ぶ世界3大市場であったはずです。

 しかし現在では、日本市場は完全にアジアのリージョナル・マーケットという位置付けになっており、もはや主要市場とはみなされていません。
 シティ全体の与信枠のうち日本市場が占める割合は1%以下といわれていますが、この数字はGDPの大きさに比してあまりにも小さい数字です。

 シティは日本で2番目に古い外資系銀行ですが、もっとも古いのはHSBC(香港上海銀行)で、こちらの進出は江戸時代に遡ります。HSBCもすでに個人向け金融部門については日本から撤退しており、シティと同様、法人向けの部門だけが残っている状況です。

citibank

法人税の減税よりも大事なこと
 日本は製造業の国であり、こうしたグローバルな金融市場のことをなど気にする必要はないという意見もありますが、現実は違います。そもそも金融サービスというのは、製造業の設備投資を金融面で支えるために発達してきたものであり、製造業との関係は切っても切れないからです。

 また米国は製造業を捨てたようなイメージがありますが、決してそうではありません。マイクロソフトやオラクルのようなソフトウェア会社、グーグルのような検索エンジンの会社もすべて製造業の延長線上にあります。
 つまり製造業のあり方が変わってきただけであり、今も昔も経済が発達する国の主力産業は製造業なのです。

 新興国の中では突出して金融立国に見えるシンガポールには、有力な半導体製造装置やIT関係の企業がひしめいています。もし日本の金融市場がガラパゴス化し、衰退しているのだとすると、それは日本の製造業の衰退と無縁ではないのです。

 日本は旧来型の製造業で韓国などと争うのではなく、付加価値の高い、知識産業型の製造業を目指すべきです。こうした新しい製造業が発達してくれば、人の往来も増え、結果的に付帯する金融サービスも活性化してくるでしょう。

 このところ税務当局の指導で、海外送金への制限が厳しくなっているという声をよく聞きます。確かに相続税などを逃れるため、海外に資金を送り資産を購入する層は一定数存在するでしょう。しかし、銀行に対する指導が行き過ぎてしまうと、本来、必要な海外送金までも制限してしまう可能性があります。

 日本の海外送金コストは、諸外国に比べると極めて高いことが知られています。手数料が高いところに、こうした制約条件が加わってしまうと、マクロ的なお金の流れが著しく鈍くなってしまいます。すぐには悪影響は出ませんが、長期的に見るとこうした環境はボディーブローのように効いてきます。

 安倍政権では法人税の減税を成長戦略と位置付け、外国人投資家誘致の切り札にしようとしています。しかし外国企業が日本進出をためらうのは法人税が高いからではありません(日本よりもはるかに法人の高い米国には世界からお金が集まっています)。
 こうした、隠れたコストや規制の影響が大きいのです。本当に日本経済を成長させようと思うのであれば、こうした細部の改革がより重要になってくるのです。

PAGE TOP