経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

専門家に対する過剰な意識を捨てる

加谷珪一の投資教室 実践編 第21回

 投資で成功するためには、プロに対する過剰な期待を捨てることが重要です。ヘッジファンドなどプロの投資家はもちろんのこと、アナリストやエコノミスト、ストラテジストなど、専門家が示す見解についても一定の距離感が必要です。アナリストやエコノミストの見解を鵜呑みにしていはいけませんが、一方で「役に立たない」と一刀両断にするのも考え物です。

アナリストやエコノミストの多くは機関投資家のために存在している

 証券会社(ブローカー)に所属するアナリストは一般にセルサイド・アナリストと呼ばれています。なぜセルサイドと呼ぶのかというと、株を売る側に所属するアナリストだからです。
 
 証券会社は投資家の株式の売買を仲介し、その手数料を収益源としています。つまり証券会社は、投資家にたくさん売買してもらった方が儲かるわけです。対面営業している証券会社の営業マンがあの手この手で、いろいろな銘柄を勧めてくるのはそのためです。

 しかし、同じ投資家といっても機関投資家と個人投資家では、売買の規模がまるで違います。投資信託や生命保険会社などいわゆる機関投資家の売買注文をどれだけ獲得できるのかが、証券会社における収益のカギとなります。

 個人しか顧客がいない中小の証券会社を除くと、アナリストやエコノミストというのは、基本的に機関投資家のために存在していると考えてよいでしょう。

 機関投資家はプロですから、証券会社のアナリストの手助けなど必要ないと思うかもしれませんが、実はそうでもないのです。

 機関投資家の運用担当者は、無数の銘柄の中から、自社の投資方針に合う銘柄を探し出し、その企業の株価を客観的に評価しなければなりません。ここに証券会社のアナリストなどが活躍する余地が出てくるのです。

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アナリストの見解を批判しても意味がない

 証券会社の営業マンは、アナリストが書いたレポートを持って、売買注文を出してもらえるよう機関投資家に営業を行います。機関投資家の運用担当者も忙しいですから、銘柄を評価する作業をすべて自分たちで行うとは限りません。あまりやる気のない運用担当者だと、アナリストが書いたレポートをそのまま投資報告書にしてしまう人もいるくらいです。

 機関投資家は、顧客のカネを預かっているので、下手な投資はできません。大きく儲からなくてもよいので、無難な投資をすることがむしろ重要です。したがってアナリストが書くレポートも、基本的にはセオリー通りの無難な内容となることがほとんどです。

 よく「アナリストの言うことなどアテにならない」「彼等は自分のカネで投資しないので相場を知らない」などと文句を言っている個人投資家を見かけますが、これは少々ナンセンスです。アナリストたちは、こうした個人投資家が投資で成功するために存在しているわけではないという現実を知っておく必要があるでしょう。

 確かにアナリストレポートに沿って投資をしても儲かりませんが、アナリストレポートが無意味なのかというとそんなことはありません。

 アナリストの見解が基本的に無難な内容に終始するのであれば、逆に、アナリストのレポートを読めば、その銘柄に対する標準的な見解を知ることができます。標準的な見解が分かってこそ、自身のシナリオが意味を持ってくるわけです。

 アナリストなど専門家の見解は、未来を予測するものではありませんが、市場のコンセンサスを知るために大いに利用すべきであると筆者は考えます。

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