自由貿易の根拠となっている比較優位説に対する誤解

加谷珪一の超カンタン経済学 第28回

 開放されたグローバル経済では、従来型の財政政策の効果は薄くなります。それでも、多くの国が自由貿易を望むのは、その方がすべての国にとって得になるからです。

絶対優位と比較優位は異なる

 自由貿易のメリットについて説明しているのが、経済学における比較優位説です。比較優位説のポイントとなっているのは、各国が得意な分野に特化した方が、全員にとって利益になるという点です。

 それぞれの国には得意なことと不得意なことがあります。一国ですべてを賄うのではなく、自国経済の中で相対的に得意なものに特化し、不得意なものは輸入した方が、経済全体の生産力が増加します。

 比較優位説はしばしば誤解を受けます。

 もっとも多いのは、「相手国よりも得意な産業に特化しなければならない」という解釈でしょう。もしそうなら、他国より強い産業がない国は、何もできなくなってしまいます。比較優位はそうではなく、国内の産業の中でより得意なものにシフトするという意味です。

 例えば、航空機の分野は、航空機本体を製造するビジネスと、素材を手がけるビジネスの2つがあります。航空機はもともと米国で発達した分野ですから、本体も素材も、もともとば米国企業が得意としてきました。

 日本の航空機産業は、米国よりも劣っていますが、国内で比較すれば、航空機本体の製造よりも部品の方が得意です。そうであれば、無理に航空機本体に力を入れるのではなく、部品製造に力を入れた方がよいという結論になります。一方、米国も航空機本体の方がより得意であれば、そこに特化した方が合理的です。

 ちなみに相手国より「強い」「弱い」という概念は「絶対優位」と呼ばれており、「比較優位」とは区別されています。

Copyright(C)Keiichi Kaya

Copyright(C)Keiichi Kaya

産業の偏在化を招くリスクもある

 もう少し詳しく説明してみましょう。米国では航空機1機を製造するのに80人必要ですが、日本は120人必要になると仮定します。一方、航空機素材は米国は90人ですが、日本は100人です。

 どちらも日本は米国よりも生産性が低いですが、日本の中では素材の方が航空機本体よりも有利です。一方、米国はどちらも日本より勝っていますが、航空機本体の方をより得意としています。

 この場合には、米国は航空機本体を、日本は素材を作り、足りない分はそれぞれ輸入した方が、全体の生産量は多くなります。つまり、どちらも得をするわけです。

 これが自由貿易のメリットであり、各国がTPP(環太平洋パートナーシップ)のような自由貿易体制を推進しているのは、このメリットを享受するためです。

 しかしながら、ここにはひとつ問題があります。各国が得意な分野への集中を過度に進めてしまうと、産業の偏在化が進んでしまいます。産業の偏りが激しくなると、競争がなくなり、逆に世界経済が停滞する可能性も出てきます。また、多くの国で産業構造を変えられないという状態に陥ってしまうことも考えられます。

 このあたりのバランスをどう取ればよいのかについては、明確な答えはありません。しかしながら、可能な限り、分業を進めた方が双方にメリットがあるという話は間違いないでしょう。

加谷珪一の超カンタン経済学もくじ