インフレと失業率の関係を示すフィリップス曲線

加谷珪一の超カンタン経済学 第25回

 前回は、インフレがどのようなメカニズムで発生するのかについて説明しましたが、物価を動かす要因の中でも、労働者の賃金は極めて影響が大きい項目のひとつです。労働市場がどの程度、逼迫しているのかによってインフレ率は大きく変わってきます。

失業率と物価には逆の相関がある

 失業率と物価には逆相関があります。景気が拡大すると企業は多くの人を雇うので、労働市場がタイトになり、賃金が上昇します。労働者の数が増加する分だけ、労働者の購買力は拡大しますから、需要が増加し、物価が上がりやすくなります。つまり賃金の動向と物価の動向は密接に関係しているわけです。

 逆に景気が縮小すると、企業は従業員の数を減らそうとするので、労働者にとっては不利な状況となり、賃金が下落します。消費者の購買力が低下するので物価も下がります。

 失業率と賃金上昇率(あるいは物価上昇率)の関係を示したのがフィリップス曲線と呼ばれるものです。フィリップス曲線は通常、横軸に失業率、縦軸に物価上昇率(インフレ率)をおきます。失業率が下がると、物価が上がってくるという流れですから、グラフの形状は右肩下がりになります。

 この流れは、第23回で解説したAS曲線のメカニズムを別の言葉で言い換えたものと解釈できます。労働市場の仕組みは各国によって異なりますから、グラフの形状や傾きがどうなるのかは国よって異なりますが、おおまかには失業率が低下すると(景気が良くなると)インフレになるという流れで問題ないでしょう。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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スタグフレーション下ではフィリップス曲線の形が崩れる

 需要が拡大し、これが物価を引き上げるというメカニズムのことをディマンドプル・インフレと呼びます。一方、製品価格が上昇したり、何らかの理由で、適正水準を超えて賃金が上昇し、このコスト負担分を企業が価格転嫁することで物価が上がるケースについてはコストプッシュ・インフレと呼んでいます。

 1970年代に発生した石油ショックのように、ある商品の価格が過剰に上昇してコスト・プッシュインフレが発生すると、さらに物価が上がるのではないかと多くの人が心配し、これがさらなる価格上昇をもたらすことがあります。モノの値段が上がって購買力が低下しますから、企業の経営も苦しくなり、失業率が増加します。

 そうなると失業率は上がっているのに、価格は上昇するという状態になり、フィリップス曲線の形が崩れてきます。いわゆるスタグフレーション(不況下のインフレ)ということですが、こうした状況が発生することがありますから、すべての局面において失業率と物価が逆相関になるわけではありません。

 政府による景気対策というのは、失業率を出来るだけ下げ、物価上昇はほどほどに抑え、かつGDP(国内総生産)が拡大することを目指すわけですが、これらをすべて満たすのは意外と難しいのです。

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