加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

*

モノ作りへの情熱を冷静に考える

 

 先日、筆者は知人のN氏と日本のモノ作りについて議論していたのですが、少々違和感を感じることがありました。今回は、日本人はすこし頭でっかちになりすぎているのではないか?という話題です。

技術とは常に進歩して形を変える
 N氏は日本のモノ作りが衰退していることについて非常に憂いを感じており、韓国や中国との競争に負けてはならないと主張しています。
 
 筆者は「確かに、従来型の製造業も大事だが、日本はより付加価値の高いソフトウェア産業や知識産業を重視すべきではないのか」「日本メーカーが本来争うべきだったのは、韓国メーカーではなくグーグルであったはず」と主張しましたが、彼はそういった製品やサービスは本当のモノ作りではないと主張し、議論は平行線となってしまいました。

 筆者はそう言いながら、実は古典的なモノ作りが大好きで、子供の頃から、半田ゴテや工具を持って育ってきました。
 小学生の頃はラジオ作りや機械いじりに夢中で、近所の自動車整備工場に通い詰め、仲良くなったオジサンからいつもいろいろなパーツをもらっていました。

 大学も工学部でしたから、研究室ではスパナやバーナーを片手に、寝る間も惜しんで大型の実験装置の組み立てを行いました。
 さすがに最近ではあまり手を動かしていませんが、それでも先日は自宅の屋根裏に入り、風呂とトイレの換気扇ダクトを自分で交換しています。

 こうした経験を積んで分かったことは、技術は常に進歩するという事実です。

 小学生の頃はトランジスタを使ってラジオを組み立てていたのが、瞬く間にICやLSIという集積回路が登場し、中学生の頃にはパソコンの普及が始まりました(パソコンといってもウィンドウズなど便利なOSは存在していませんでしたが・・)。

 火傷をしながら電気回路をひとつひとつ組み立てるという手間をかけていた筆者は、キーボードから言語を打ち込むだけで回路の動作を決めることができるソフトウェアという技術に驚嘆したものです。

 その後、ソフトウェアはインターネットという通信技術と融合し、さらに知的に進化しています。同じ電気回路をベースにした技術でも、今では半田ゴテの匂いがすることはなく、非常に洗練されたスマートな技術に変わっているわけです。
 
 それが技術でありモノ作りというものだと筆者は考えます。

koujou

手を汚してこそ、ソフトの良さが分かる?
 かつて大工さんはクギ打ちのワザを競ったものですが、今は手でクギを打つ大工さんなどいません。優秀な電動工具が揃っているからです。

 実際にやってみれば分かりますが、電動工具の便利さを体験したら、もう昔には戻れません。つまり、実際にクギを打ち、手をケガしてきた人だからこそ、電動工具の良さを肌身で理解できたと考えることもできるのです。
 
 その点で考えれば、日本は手を汚す製造業をこれまで続けてきた国ですから、むしろその先を見据えるべき立場にあるといえます。

 中国や韓国と争って、従来型のモノ作りを続けていく必要はないのです。モノ作りの心を大事するのであれば、むしろ、その先の洗練された技術を極めることの方が重要でしょう。

 N氏は典型的なエリート育ちで、プライベートでも仕事でも、手を油でよごしたり、工具でケガをした経験はほぼ皆無です。つまり、彼の製造業への思いは、頭の中で膨らんでしまったイメージなのです。

 そういう意味では、逆説的ですが、皆が手を汚す経験をすることによって、逆に、手を汚すことのない新しい技術のメリットを理解できるようになるのかもしれません。

 泥臭い経験をすべきだというベタな意見には筆者は賛同しないことが多いのですが、この点については、多少そうかなあ、という思いがあります。

 製造業とは直接利害関係がないにも関わらず、旧来型の製造業に過剰な思い入れを抱いている人は、少し頭でっかちになっているのかもしれません。

 - テクノロジー, 社会, 経済 ,

  関連記事

sukaimaku
日本の空はどうなっている?

 このところ日本の航空業界でネガティブな出来事が続いています。日本の格安航空会社 …

merubin02
ヤマト運輸のメール便廃止から考える、日本の「法」に対する考え方

 郵便事業における信書の扱いをめぐって、ヤマト運輸と政府がバトルを展開しています …

ranshitoketu
米国企業の女性支援策はすでにここまで来ている

 現在、日本では女性の登用が大きなテーマとなっていますが、かなり以前から女性の登 …

kurodatuika
日銀がまさかの追加緩和。背景には何が?今後の市場はどうなる?

 日銀は2014年10月31日の金融政策決定会合で、追加緩和の実施を決定しました …

ongakuchosakuken
エイベックスがJASRACから離脱。音楽著作権管理は多様化が進む?

 音楽著作権の世界が少し騒がしくなっています。日本では、長年にわたって日本音楽著 …

mrjenki
大型客船に続いてMRJも。三菱重工の納期トラブルから考える同社の本当の姿

 三菱重工で相次いで納入延期のトラブルが発生しています。米国のクルーズ会社から受 …

kanebou
カネボウ問題に見る、ホンネとタテマエ論

 カネボウ化粧品の美白化粧品において、肌がまだらに白くなる症状が出た問題で、同社 …

toyodaakio
トヨタが税金を払っていないという話題から見えてくるもの

 トヨタ自動車が過去5年間法人税を払っていなかったことが大きな話題になっています …

genyukakau
原油価格下落のメカニズムと経済への影響を考える

 原油価格の下落が、世界中の投資家心理を急激に悪化させています。安い原油価格が、 …

kabunusikangen
企業による株主への利益還元策が活発化している理由

 このところ、企業の利益を株主に還元しようという動きが活発になってきています。日 …