経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 超カンタン経済学

物価の上下はGDPにどう影響するのか?

加谷珪一の超カンタン経済学 第22回

 これまで取り上げてきたIS-LM分析は基本的に物価が一定であることが前提条件となっていました。しかし現実には物価が上限変動し、これが経済に影響を与えますから、物価の動きをモデルに組み入れる必要があります。これがAD-AS分析です。

物価が下がるとより多くのモノを買うことができる

 経済学ではモノやサービスを取引する市場のことを財・サービス市場、貨幣を取引する市場のことを貨幣市場と呼びます。経済は需要と供給のバランスで成り立っていますが、これはモノやサービスと貨幣の間でも同じです。

 AD曲線は、財・サービス市場と貨幣市場が均衡する時の物価とGDPの関係を示したものです。物価が下がるとGDPが増え、物価が上がるとGDPが減少します。つまりAD曲線は右肩下がりの形状となっているわけですが、理由は以下の通りです。

 IS-LM分析のグラフでは、貨幣市場における均衡を示すLM曲線は右肩上がりとなっていました。もしこの状態で物価が下落した場合には、同じ貨幣の量でより多くのモノが購入できるようになります。これは金融政策で貨幣の量を増加させたことと同じ効果をもたらしますから、LM曲線は右側にシフトします。

 LM曲線が右側にシフトすると金利が下がるので、投資が促進されてGDPが増加します。つまり物価が下がると、金利が下がり、GDPが増えるという関係ですから、物価とGDPの関係は逆相関となります。これをグラフにしたのがAD曲線というわけです。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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短期的にはGDPは物価の影響を受ける

 物価が上がると動きは逆になります。貨幣の量が変らなければ、購入できるモノの数が減りますから、マネーサプライが減少したことと同じ効果が得られます。つまり物価が上昇すると、LM曲線は左側にシフトします。

 LM曲線が左側にシフトすると、金利が上がりますから、投資が抑制されます。結果としてGDPは減少することになります。物価が上がると、GDPが減るという流れが成立するわけです。

 長期的に見た場合、物価というのは市場に供給される貨幣の総量で決まります(貨幣数量説については後ほど解説)。しかしながら短期的には物価は様々な動きを見せますから、それによってGDPを変動させることになります。経済の専門家が物価動向に注意を払っているのはそのためです。

 ちなみに財政出動や金融政策といった景気刺激策を実施すると、同じ状態でGDPだけが増加しますから、AD曲線は右側にシフトすることになります。この動きは、後の分析で必要となりますから、覚えておいてください。

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