貿易黒字と経済成長は直接関係しないが・・・

加谷珪一の超カンタン経済学 第15回

 家計が貯蓄したお金は、投資に回るか、政府の借金に回ることになります。それでも余ったお金は貿易黒字の分と一致します。貿易が加わっても、経済学の基本原則である「貯蓄=投資」は成立することになります。

貿易黒字と経済成長に直接的な関係はない

 貿易収支は黒字、赤字と表現しますから、黒字は良いことで、赤字は悪いことと思っている人が多いと思います。しかし、ここでの黒字、赤字は単純にお金の出入りを示しているだけなので、経済成長とは直接関係しません。

 この記事では以前も解説しましたが、貿易収支が黒字ということは、国内だけでなく、海外にも需要があるということを意味しているに過ぎません。仮に輸出がなくても、その分だけ国内の消費や投資が多ければ、GDPの水準は同じになります。

 日本は輸出大国となっていますが、それは現時点でのGDPを生み出すにあたって海外の需要も利用しているということです。米国のように消費が活発であれば、輸出が少なくてもGDPを増やすことは可能です。

 輸入も同じです。ある国が経済成長してGDP(国内総生産)が増えてくると、それに比例して輸入が増えてくるのが普通です。付加価値の低い製品を国内で製造するメリットは小さいですから、これを海外からの輸入に切り換え、自国では付加価値の高い製品やサービスに特化するのは合理的な選択といえます。

 社会を豊かにするためにはGDPを増やす必要がありますが、輸出がなければGDPが増えないというわけではありません。しかし、新興国にとっては、GDPを増やす手っ取り早い手段が輸出になるので、モノ作りや輸出が奨励されているのです。

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経常赤字国が高成長を実現するにはスキルが必要

 ただ、貿易黒字が直接、経済成長に関係ないからといって、貿易収支が赤字になることがまったく問題ないとは言い切れません。

 もし何らかの理由で貿易収支が赤字になった場合、国内の資金が不足し、国債を発行しにくくなります。国内にお金が足りなければ、海外からのファイナンスが行われますが、これが市場の不安定化を引き起こす可能性は否定できないでしょう。

 米国のように大量の経常赤字を垂れ流しても、それ以上に国内市場が世界の資金を吸収し、高成長を続けられる国もありますが、皆がこのようなマネジメントを実現できるわけではありません。

 また、貿易収支が変化すると、貯蓄や投資の流れが変化する可能性があります。変化のスピードが緩やかだった場合には問題ありませんが、急激な変化が起こった場合、様々な産業で混乱が発生するでしょう。

 貿易収支が直接、経済成長に影響を及ぼすわけではありませんが、政府が貿易収支の動向を気にしているのはそうした理由からです。

 しかしながら、日本はすでに成熟国の部類に入っており、新興国のように、輸出をしなければ国内で生産した財やサービスを消化し切れない国ではありません。輸出に頼るのではなく、国内の消費を活発にすることで豊かな経済を実現する方が理にかなっています。

 その意味で、過度に貿易黒字にこだわるのはナンセンスですが、従来の感覚のまま経常収支が赤字になってしまうと、経済運営が困難になる可能性は十分にあります。つまり定常的な経常赤字を高成長につなげるためには、成熟国としての相応のスキルを身に付ける必要があるのです。

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