有識者はたいていの場合、利害で発言している(専門家編)

加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第18回

 有識者の見解としてメディアでよく目にするのが、ITなど技術分野における専門家の見立てです。技術的なテーマについては、多くの人が苦手意識を持ちますから、専門家の意見が重宝されやすくなります。

理髪店に髪を切るべきか訪ねてはいけない

 技術の専門家の話を聞く上で、もっとも注意する必要があるのは、話の内容とその人が属する組織の利害関係です。世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏の名言に「理髪店に髪を切るべきか聞いてはならない」というものがあります。

 理髪店は髪を切るのが商売ですから、髪を切った方がよいか?と質問すれば、切った方がよいと答えるに決まっています。利益がもたらされる人に質問してはいけないというのは、あらゆる世界において共通の概念といってよいでしょう。

 ところがこのルールは、現実にはほとんど守られていません。多くの人が、自分が知らないという不安から、それをビジネスにしている専門家に過度に依存してしまうのです。特に企業のIT化に関する話はこの傾向が顕著です。

 企業の情報セキュリティ強化について検討する際、セキュリティ関連のソフトウェアを売っている企業の専門家に聞けば、セキュリティを強化すべきであると発言するに決まっています。具体的な手法についてはその人が属している会社の製品を使うよう提案するでしょう。

 そのこと自体は悪いことではありません。

 企業はボランティアで活動をしているわけではなく、情報セキュリティ企業の専門家は自社の製品やソリューションを売るのが仕事です。質問されれば、自社に有利に回答するのは当然のことといえます。

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専門家が客観的であるとは限らない

 しかし、メディアなどでは、こうした企業に属する専門家の見解が、あたかも中立的で客観的な意見であるかのように取り上げられることも少なくありません。こうした話をストレートに受け止めてしまうと、意思決定において大きなミスをする可能性があります。

 専門的な知識があることと、客観的な分析ができることは、似ているようで異なります。専門家による説明はあくまで細かい専門知識を得るために活用するものであって、意思決定そのものを専門家に委ねてはいけません。

 専門知識が乏しい中、専門家の意見に惑わされないようにするためには、多くの専門家にあたり、その見解について比較検討することが重要です。

 物事の本質について正しく理解している専門家なら、一般の人にも分かるようにシンプルに説明できるはずです。

 例えば仮想通貨が流出したようなケースでは「要するに銀行強盗であり、仮想通貨そのものの問題ではありません」と説明できるなら、その専門家はかなり信用してよいでしょう。

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