GDPの式に出てくる恒等式は方程式とは違う

加谷珪一の超カンタン経済学 第10回

 これまでGDPを構成する項目などについて解説してきましたが、ここから先は、GDPの各項目が経済の動きに対してどのような役割を果たすのかについて説明していきます。その前に、GDPを示す数式について少し言及しておきたいと思います。

恒等式と方程式の違い

 これまで説明してきたように、一般にGDPは、消費(C)+ 投資(I)+ 政府支出(G)という数式で表わされます。GDPというものが、消費、投資、政府支出の3つで決まるのであれば、どれかを意図的に増やせば経済は拡大するのではないかと思えてきます。
 現実にそのような試みは行われており、政府支出(G)を増やすことで景気を拡大させようという、いわゆる財政出動は毎年のように実施されています。

 ところが、こうした施策を行っても、必ずしも経済が拡大するわけではありません。そうなると、GDP=消費(C)+ 投資(I)+ 政府支出(G)という式は正しくないのでしょうか。

 実はここにはあるカラクリが存在します。

 普通に考えると、政府支出(G)を増やせば、その分だけGDPも増えるよう思えます。しかし、こうしたメカニズムが実現するためには、Gを増やしても、CやIの数字が変化しないという条件が必要です。つまり、CとIが数学で言うところの定数であれば、このメカニズムが成立します。

 しかし、GDPを示す数式にはこの法則は当てはまりません。なぜならGDPを示す式は恒等式と呼ばれるもので、学校でよく習った方程式や関数とは異なる数式だからです。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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一部の専門家の説明不足が誤解を招いている

 恒等式とは、各変数がどんな時でも成立する等式のことです。つまり消費(C)、投資(I)、政府支出(G)の3つはどのような値でも取り得るということです。つまり、GDPがどう変化するのかについては無限通りの答えがありますから、結果を予測することは原理的に不可能となります。

 これに対して方程式というのは、特定の「解」がありますから、解を求めることが可能です(解を求めることを方程式を解くと言います)。関数というのは、変数の値が変化すると、それに伴って結果がどう変わるのかを示した数式ですから、やはり一意的に結果が決まります。

 GDPは恒等式で示されていますから、原理的に将来を予想することはできないのです。

 それでは、景気を予測することはできない、ということで話はおしまいになってしまいますから、現実の経済分析では、恒等式を方程式あるいは関数と読み替えて予想を行っています。

 先ほどの式において、消費(C)と投資(I)が定数で、変数が政府支出(G)のみだった場合には、これはGを変数とする関数になりますから、Gが変化するとGDPがどう変わるのかを予想できます。
 実際はもっと複雑ですが、ある項目を定数に、別の項目をある経済指標を変数とする関数にする、といったように数多くの前提条件を置き、GDPの式が関数であるかのように見なしてシミュレーションを行うのです。つまり各種の経済予測を利用する際には、仮定条件が入り込んでいるということを前提にしておかなければなりません。

 経済の専門家の中には、こうしたことについて対外的にきちんと説明しない人が結構います。このため、多くの人が混乱しているようです。

 理屈の上では、恒等式を使って経済の将来予測を予測することはできませんが、ある仮定条件のもとで、将来のシナリオを作成することは可能です。一般的な経済予想というのは、こうした仮定条件下でのシナリオのことを指しています。

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