アルゼンチン政府は2018年5月8日、IMF(国際通貨基金)に支援を要請しました。通貨ペソが急落し、資金流出が激しくなっていることから、最悪の事態になる前にIMFに駆け込んだ格好です。
経済の基礎体力が脆弱だと、わずかな財政赤字も悪影響を及ぼす
アルゼンチンは過去、何度もデフォルト(債務不履行)を起こしており、経済破綻の常習犯と呼ばれてきました。しかし、現在、政権の座にあるマクリ大統領はビジネスマン出身で経済にも明るく、国際金融の世界では評価の高い人物として知られています。それでも、IMFからの支援を回避することはできませんでした。
今回、アルゼンチンが厳しい状況に追い込まれたのはフェルナンデス前政権の放漫財政が主な原因です。
同国は2001年にデフォルトを起こしていますが、この時には、返済不能となった国債を新しい国債に交換する措置を実施するとともに、固定相場制から変動相場制にシフトすることで国際競争力の回復を試みました。
効果はまずまずで、為替の切り下げによって輸出が拡大し、一時は順調に経済が回復するかに見えました。しかし、2010年あたりから、フェルナンデス政権のバラマキ体質が顕著となり財政が悪化。通貨が徐々に売られるようになってしまいました。
2010年時点における同国の政府債務のGDP比率は42%とそれほど高くありません。日本はGDPの2倍という驚異的な水準の政府債務を抱えていますが、経済危機にはなっていません。
一般論として過大な政府債務が経済に悪影響を与えるのは事実ですが、どの水準以上になると危険なのかは、経済の状況によって異なります。米国は100%、ドイツは65%程度ですが、アルゼンチンのように経済の基礎体力が脆弱な場合、GDPの50%程度でも大きな影響を及ぼすことがあるわけです。
為替介入や外貨制限、そして経済統計の変更も実施
通貨の下落を受け入れ、財政再建を進めていれば、ここまでの状況にはならなかったはずですが、フェルナンデス政権は、為替への介入をスタート。実際のレートよりもペソを割高な状態で維持しようとしました。
国民の経済活動への介入も強化し、外貨保有を制限するとともに、海外旅行への支出に対して課税を行うなど、外貨を持たせないようにする政策を進めました。そうなってくると、公定レートと実勢レートという2つの為替レートが併存することになり、当然、物価は実勢レートに合わせて上昇してしまいます。
国内は激しいインフレとなり、米ドルをベースにした闇市が拡大する結果となりました。これがさらにペソの売りを加速するという悪循環になってしまったわけです。
またフェルナンデス政権は、統計データの恣意的な解釈や変更をたびたび行い、経済は悪くなっていないことを印象付けようと試みました。経済統計のデータに手を付けるようになると、これはかなりの危険信号です。
実は日本でも、最近、少し気になる動きがあります。GDPの基準変更に際して、単純に基準の変更で数字が大きくなった部分について、日本経済が成長した結果であると言い換えるケースが散見されるようになってきました。
また「基礎的財政収支を2020年までに黒字化」という目標が達成不可能になると、「財政赤字のGDP比を3%以下にする」というより緩い基準を設定し、目標を変更しようという動きが見られます。これらはすべて、事態を客観視せず、モノサシの方を変えてしまうという話であり、非常によくない兆候です。
話は少しそれましたが、度重なる失策の結果、2015年の大統領選挙では改革派のマクリ大統領が当選。状況が改善するかと思われましたが、そうは問屋が卸しませんでした(後編に続く)。