経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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マネックスがコインチェックを買収。経営安定は確実だが、スッキリしない感じが残る

 約580億円分の仮想通貨NEM(ネム)の流出騒ぎを起こした仮想通貨事業者コインチェックがマネックスに買収されることになりました。とりあえずマネックスの傘下に入ることで、経営を立て直すという方向性ですが、開示されない情報も多く、利用者や一般投資家にとっては何ともスッキリしない結果です。

コインチェックの本当の経営権は誰が握っていたのか?

 マネックスグループは2018年4月6日、コインチェックを買収すると発表しました。買収金額は36億円でマネックスが全株式を取得しますが、発生する費用はそれだけはないようです。

 マネックスと現株主との間には、支払い条件に関する契約が締結されており、今後、3年の間にコインチェックから得られる当期利益の2分の1を上限とする金額を追加で支払う可能性があるとしています。
 しかしながら開示されたのは上限が利益の2分の1という部分だけであり、具体的にどのような条件が設定されているのか外部からはまったく分かりません。

 またマネックスに株式を売却するコインチェックの株主についても情報が出されていません。コインチェックの株主として正式に名前が出ているのは、代表取締役社長の和田晃一良氏(45.2%を保有)と取締役COOの大塚雄介氏(5.5%)だけで、残りの株主は非開示となっています。これまでの報道や同社の発表などから投資ファンドと一部の個人で構成されていると思われます。

 コインチェックによるNEM流出が明らかになった際、和田社長は記者からの質問に対して、何度も「株主と相談してからでなければ答えられらない」という奇妙な発言を繰り返していました。一般的に、経営陣が過半数の株式を所有している状況であれば、会社の経営権はすべて経営陣にあり、個別の発言内容についていちいち株主に確認する必要はありません。

 しかしながら、投資ファンドが株主の場合、経営者とファンドが株主間契約を締結する場合があり、内容によっては経営者がほとんど経営権を発揮できないこともあります。コインチェックにそのような株主間契約が存在していたのかは分かりませんが、その可能性があることは否定できないでしょう。

創業者はサラリーマンとして会社に残る

 もしそうであるならば、どこまでを外部に開示するのかについては、株主としっかり協議してから会見に臨むべきであり、顧客に対して誠意が欠けていたのは確かでしょう(実質的に最終決定権を持たない人物が記者会見に臨んでも意味がないからです)。

 つまりコインチェックという会社は、理由はどうあれ、株主から極めて強い影響を受けている会社だということが記者会見で明らかになったわけですが、そうなってくると、一連の経営体制の責任は最終的に誰にあったのかという問題が浮上してくることになります。

 大手企業の傘下に入るなど、資本構成の変化が生じれば、こうした疑問もある程度、氷塊するかと思われていましたが、残念ながら今回のマネックスによる買収でも、スッキリした結論は得られませんでした。利益優先体質と批判された同社の経営方針が、株主からの要請によるものなのか、経営陣の判断だったのかは結局のところ不明のままです。

 ただ、同社は今後、上場企業であるマネックスの完全子会社となりますから、経営体制は確実に安定すると思われます。マネックスではIPO(株式の新規上場)も視野に入れているとのことなので、今後の業績によっては早期のIPOも可能となるかもしれません。

 ちなみに創業者で社長だった和田氏やCOOだった大塚氏は、取締役や株主からは追い出されますが、執行役としては会社に残ることになります。今後は起業家ではなくサラリーマンとして、同社の業務に従事することになります。

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