加谷珪一の知っトク経営学 第12回
【資源戦略とプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント 前編】
前回、解説したドメイン戦略と平行して進めていく必要があるのは資源戦略です。資源戦略は、ヒト、モノ、カネといった経営資源をいかに配分するのかをテーマにしたものです。
企業が持つ資源には限りがありますから、これを有効活動できないと、最大の成果を発揮することはできません。いくら立派な競争戦略やドメイン戦略があっても、それを実現できなければ何の意味もないわけです。
経験値が上がるとコストが急低下
資源戦略の発展に寄与したのは米国のコンサルティング会社ボストン・コンサルティングです。同社は、資源戦略を分かりやすい形で図示するツールとしてプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)というものを編み出しました。これは世界に広く普及することになり、戦略論が一気にメジャーな存在となりました。
PPMはマトリックスになっており、横軸に相対的な市場シェア、縦軸に市場の成長率を取ります。このマトリックスは多くのビジネスマンが使っていますので、一度は目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
ボストン・コンサルティング社がこのツールを編み出すきっかけとなったのは、経験曲線効果と呼ばれるものです。
これは、同社がコンサルティングを実践する中で経験則的に導き出した法則で、製品やサービスの累積生産量が2倍になるごとに、生産にかかるコストが一定割合で減少していくというものです。形状としてはベキ関数のようなものになりますから、生産量とコストの両方の軸を対数で記述すると、グラフは直線で記述することが可能です。
最初に参入した方が有利になる
経験曲線効果は、規模のメリットとは異なる概念で、どちらかというと時間の関数と考えてよいでしょう。
一定時間が経過すれば、コストが下がることが分かっていますから、市場の急激な伸びが期待できる場合には、その市場に一番乗りした方が有利という結論が得られます。やがて市場が拡大した時には、自社のコストは下がっていますから、コスト優位の戦略を採用できるわけです。
逆に、市場が成長する初期段階は高いコストが許容されますから、その段階で多くの利益を取ってしまうという考え方もあります。
インターネット・プロバイダとしては老舗であるIIJという会社があります。同社はインターネットの黎明期に、企業向けプロバイダとしていち早く市場に参入しました。
当初はあまり競合がいませんしたから、同社は顧客に対してコスト積み上げ的に利用料金を請求することができました。したがって当初のIIJは非常に高収益だったのです。
しかし、プロバイダという存在が当たり前になり、累積のサービス生産量が増えてくると、業界全体でのコストが低下してきますから、IIJもやがてあまり儲からなくなってしまいます。
しかし初期段階で大きな利益を上げた蓄積がありますから、同社はその資金を使って新規分野を開拓したり、企業のM&A(合併・買収)を行う余裕があったわけです。IIJは経験曲線効果を最大限に活用することで成長した企業といってよいでしょう。
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