仮想通貨の普及は、中世型都市国家の復活を促す

 韓国の首都であるソウル市が、独自の仮想通貨発行を検討していることが明らかとなりました。また、香港を拠点とする仮想通貨取引所大手のバイナンスが、地中海の島国マルタ共和国に拠点を開設すると発表しました。
 仮想通貨には逆風が吹いていますが、一方で、独自の仮想通貨経済圏を構築しようという動きも活発です。これは何を意味しているのでしょうか。

実は仮想通貨と行政組織の親和性は高い

 仮想通貨の基本技術となっているブロックチェーンは、実は行政組織と親和性が高いという特徴があります。住民台帳や不動産登記などをブロックチェーンに置き換えれば、極めて信頼性の高い行政情報システムを低コストで構築することができます。

 また行政には、各種サービスがあり、利用者から料金を徴収するものもありますし、無料のサービスの場合には、それを担保する財源もあります。

 行政組織というのは、対価の支払いや受け取りが日常的に存在し、しかも基本インフラの多くが、ブロックチェーンで置き換え可能という状況にあるわけです。ブロックチェーンと通貨はすでに深く結びついていますから、これらを一体化しようというのは、ある意味で自然な発想といってよいでしょう。

 ソウル市のプロジェクトの詳細は近日中に発表されるとのことですが、発行された仮想通貨は、市が行う社会福祉などの支払いに使われるとのことです。

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なぜ中性から近代にシフトしたのか?

 ソウル市のプランがうまく機能するのかは分かりませんが、こうした計画が登場してくることには、一種の歴史的な必然性があります。カギを握っているのは、中世から近代へのシフトです。

 現在、わたしたちは近代国家の枠組みの中で生きていますから、広域を統括する政府組織があり、共通の法定通貨を利用するのが当たり前だと思っています。しかし近代化以前、中世の時代には、地域ごとに独立した国(現代の国家とは異なる)が存在し、それぞれ独自の通貨を持ち、個別の経済圏を形作っていました。

 このように小さな国が乱立している状況は効率が悪く、弊害も多かったことから、統一国家が模索され、現在の国家の姿が完成しました。つまり、現在の国家の形態は、絶対的に人類が望んだものとは限らず、テクノロジーの未熟さがもたらしたものともいえるのです。

 しかし、今の人類には高度なIT技術があり、仮に地域で通用する通貨が多数存在しても、交換や支払いなどの業務をシステム上で完結することができます。つまり現代のテクノロジーを駆使すれば、中世型の都市国家というものを容易に再構築できる可能性が見えてくるわけです。

 中世の時代は、技術が未発達だったことから、相互の行き来にも限界があり、そうであるがゆえに社会は閉鎖的でした。中世が暗黒時代と呼ばれるのも当然といってよいでしょう。

人には最適な行動半径がある

 一方、近代化による大量生産技術は、広域の行政運営を可能にし、わたしたちが馴染んでいる現在の国家を成立させました。しかしながら、人間には最適な行動半径というものがあり、必ずしも広域な国家運営が多くの人にとって心地よいとは限りません。移動が容易な現代においては、小規模な経済圏が多数存在しても、人々の生活を息苦しいものにはしない可能性が高いでしょう。

 これまで技術的に不可能だった地域ごとの国家運営がテクノロジーの進歩によって可能となるなら、わたしたちの価値観は大きく変わる可能性があります。

 ソウルでこうした仮想通貨のプロジェクトが検討されたり、中世国家に近い雰囲気を残すマルタ共和国が仮想通貨の誘致に積極的なのは歴史的な必然ともいえるのです。

 筆者は仮想通貨については基本的にポジティブな立場ですが、既存の法定通貨に取って代わる存在になるとは考えていません。しかし、仮想通貨のテクノロジーが、近代国家やその基盤となっている近代通貨システムに再考を促している可能性については、真摯に検討する必要があると思っています。