加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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何十年に一度というキーワードが連呼される背景

 

 先日の台風8号は「10年に1度」「50年に1度」などと大変な騒がれようでした。確かに沖縄では記録的な暴風雨になったり、各地でこれまでにないレベルの大雨を発生させるなど、被害は少なくなかったのですが、最終的に台風は関東の沖合で温帯低気圧へと変わってしまいました。

震災だけがきっかけではない
 事前に予想されたほどの被害にはならなかったので、不幸中の幸いではありますが、少々ヒステリックな雰囲気に違和感を感じた人も多かったようです。
 最近になって、「何十年に一度」という耳慣れない言葉をたくさん聞くようになりましたが、それは、気象庁が特別警報という新しい警報の基準を作ったからです。

 きっかけは、2011年の台風12号による大雨です。気象庁は従来通り、警報を出して呼びかけたのですが、自治体の職員がどれほど深刻なのか判断できず、適切な避難指示ができませんでした。
 これまでのような、雨量が何ミリという数字では、職員がピンとこないので「何十年に一度」という表現を導入したのです。

 現実に目の前で滝のような雨が降っているにも関わらず、数字だけでは、どれほど危険か分からなかったという自治体職員の感覚も驚くべきもののですが(身分が安定していて仕事がヒマだとそこまで動物的感覚がなくなるものなのだろうか・・・)、それはともかくとして、こうした出来事をきっかけに、特別警報というものが作られ、それに合わせて報道も行われることになりました。
 その結果、何かあるたびに、あちこちで「何十年に一度」というキーワードが絶叫される事態となったわけです。

 しかし、何十年に一度というのは、あまり科学的な表現とはいえません。本当に何十年に一度の規模だったのかは、実際に起こってみなければ分からないことであり、事前にそれを言い切ってしまうというのは、少し無理があります。サイエンスに徹するのであれば、従来通り、予想雨量が何ミリ、最大風速が何メートルというのが適切と思われます。

 だが、こうした大げさな呼びかけが積極的に行われ、社会もそれを許容するようになってきたということは、おそらく日本人のメンタリティの変化が関係していると考えられます。そして、こうしたメンタリティの変化は、実は日本の経済的状況にも大きく関係している可能性が高いと考えてよいでしょう。

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人間は唯物的な動物?
 日本では震災以降、軽い集団ヒステリーのような状態が続いています。原発や節電をめぐる過激な論争や、判で押したように多くの人が口にする「安心安全」や「絆」といったキーワードは、震災のショックが大きかったことに起因していると思われます。

 筆者は東北出身であり、仙台には多くの知人友人や親類が住んでいますから、震災は他人事ではありません。また、多くの人にとっては記憶にすらないかもしれませんが、東北では死者の出る巨大地震が過去何回か起こっており、震災後、どのような事態が発生するのかは、肌感覚としてよく知っています。

 しかし、こうした風潮の変化は震災だけが原因ではないように思われます。その背後にはもっと根源的な原因が存在しています。それは、日本経済の基礎体力がなくなり、年々日本が貧しくなっているという現実です。

 ここ20年で世界経済は規模を大幅に拡大させてきました。新興国はこの間に約3.5倍、米国やフランス、ドイツなど先進各国ですら1.5倍以上、経済の規模が拡大しています。しかし、日本経済はこの間、ほぼ横ばいとなっており、世界から完全に取り残されています。

 江戸時代のように鎖国し、農業だけで生きていく国ならばそれでもよいのですが、日本は貿易で生計を立てている国です。世界経済の規模に日本が追い付いていないということは、そのまま日本社会の相対的な貧しさにつながってきます。

 多くの人は、直接意識していませんが、日本社会は確実に貧しくなってきており、それは深層心理における不安として、人々の言動に影響してくるわけです。

 このところ、日本の物作りのすばらしさを必要以上に強調するマスメディアの論調が多いのですが、この現象もこうした状況とは無関係ではなさそうです。
 日本が本当の意味でボロ儲けだった高度成長時代には、むしろ日本の物作りを揶揄する雰囲気の方が強いくらいでした。人間は、本当に豊かな時には過剰な自己賛美などしないようです。

 筆者はマルクス主義を基本的に信用していないのですが、マルクス主義の根幹をなす概念のひとつである唯物論については、もっと注目してよいと思っています。人間の精神など案外脆弱なものであり、周囲の物理的な環境にいとも簡単に影響されてしまうものです。

 相対的に地位が低下している日本の現状について、多くの人がはっきりと認識するまで、こうした迷走は続くのかもしれません。

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