経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

ロシア強気外交のウラ側

 ロシアのプーチン大統領は2014年7月、他国への武器輸出を拡大する方針であることを明らかにしました。ロシアは軍事力を背景にクリミアを併合するなど、その覇権を拡大しているように見えます。武器輸出の拡大でロシアの影響力がさらに強くなることを懸念する声も出ているようです。

 しかし、この見方は必ずしもロシアの現状を的確に表しているとは限りません。戦争も最終的にはお金の問題に行き着きくものなのですが、お金という視点でロシアを見るとまた別の風景が見えてきます。

ロシアの天然ガスは諸刃の剣
 ロシアは大国に見えますが、実はそうでもありません。ロシアのGDPは200兆円程度しかなく、米国の7分の1、日本の半分以下という水準です。経済的に見ればロシアは小国に過ぎません。

 またロシアはエネルギー以外に国際的に競争力のある目立った産業を持っていません。ロシアの輸出額は年間40兆円ほどしかないのですが、その多くが天然ガスに依存しています。ロシアは天然ガス以外に外貨を獲得する有力な手段を持っていないのです。

 ロシアはウクライナ欧州に対して天然ガスの供給を制限することをチラつかせる、いわゆる恫喝外交を行っています。しかし欧州側がそれほど慌てていないのは、ロシアが本当に天然ガスの供給をストップしてしまうと、ロシアは貴重な外貨を失い、経済が一気に苦境に陥ってしまうからです。

 先日、ロシアは中国に対して天然ガスを供給する契約を締結しました。ロシアが欧州に輸出する天然ガスの4分の1という量ですから、この契約があれば、ロシアは欧州向け天然ガスを制限しても何とか外貨を稼ぐことができます。ロシアにとってはよい契約ですが、中国に対して大幅に譲歩するという代償を払っています。

 ロシアが外貨を獲得できないと経済的に苦しいだけではありません。ロシアの軍事技術は実は非常に遅れた状態にあり、海外から兵器を輸入しないと、十分な兵力を備えることができない状態になっているのです。

putin

ロシアはむしろ弱者の戦法?
 ロシアは現在、フランスから強襲揚陸艦2隻を購入する契約を進めているのですが、ロシアにはこうした高性能な軍艦を建造する能力がないことが兵器を輸入する理由です。

 強襲揚陸艦の購入は、実は北方領土を日本に奪還されないようにという意図があるといわれています。つまり、フランスから兵器を輸入しないと、自衛隊に勝てないとロシアは考えていることになります。

 今回のロシアの兵器輸出もこうした状況の延長線上として考える必要があります。ロシアはすでに年間150億ドル(約1兆5300億円)以上の武器を輸出しており、世界最大の武器輸出国になっています。世界の武器市場におけるロシアのシェアは25%に達するというデータもあります。

 一方で先に述べたように、ロシアの兵器の水準はそれほど高いものではありません。そのような中でロシアが武器の輸出をさらに拡大させようというのは、ズバリ雇用対策と外貨対策だからです。

 プーチン大統領は「防衛産業の強化と雇用創出のため、武器輸出を拡大すべきである」と述べており、雇用がその目的のひとつであると明言しています。
 付加価値の低い兵器でも輸出を強化することで、貴重な外貨を獲得し、乏しい国内の雇用を増やすとともに、近代兵器の購入代金に充てようとしているわけです。

 ロシアの経常収支が3兆円ほどですから、武器輸出の拡大はロシア経済にとって非常に重要な役割を占めることになります。

 現代の戦争は装備のハイテク化が進み、経済力や技術力への依存度が年々高まっています。2012年のロシアの軍事費は約9兆円ですが、68兆円に達する米国との比較ではもちろんこと、すでに17兆円を投じている中国と比較してもかなり見劣りがします。

 強大な軍事力を背景に、力で交渉を推し進めているように見えるロシアも、実はかなり大変なのです。逆にいうとプーチン大統領という有能なトップがいなければ、こうした振る舞いをすること自体が、かなり難しかったと考えるべきでしょう。

PAGE TOP