加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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「日本は過保護の国」論のデジャブ

 

 著名ブロガーのちきりん氏が「日本はおこちゃまの国」と題する記事をブログに執筆して話題となっています。
 日本は過保護で過剰に管理されているため、想定外のことへの対処も含めて、世界で戦う力をなくしているという話です。

日本は「普通の国」になるべき?
 ちきりん氏の話はまさに正論なのですが、ちきりん氏が引き合いに出した、日本の海岸の無意味な規則の話や速度無制限となっているアウトバーンの話、そしてちきりん氏に対する多くの反論などを見ていると、日本は何十年も同じ話を繰り返しているのだということを、あらためて感じさせます。

 日本人は過保護な環境が当たり前と思っており、これを改善しなければならないという議論は、何十年も前から繰り返し繰り返し行われてきました。

 かつて小沢一郎氏は、戦後日本の過剰な平和主義を批判し、自国の防衛に軍事力を行使できる「普通の国」になるべきだという主張を展開して、非常に注目されていました(現在の小沢氏からはちょっと想像できませんが、改革の象徴と期待される政治家でした)。

 当時の小沢氏は、市場原理主義的な主張も併せて行っていましたから、この「普通の国」という言葉には、過剰な規制や、ムラ社会的な相互監視システムをやめ、個人が自立した本当の意味での近代国家になるべきという意味が含まれていました。

 当時はそうした文脈の中において、過剰な遊泳禁止や、これでもかと繰り返される街中や電車のアナウンスなどについても、改善していこうという議論になっていたのです。
 ドイツのアウトバーン(速度無制限の高速道路。現在では速度無制限区間はごく一部だけになっている)は、ドイツ人の個人主義とその責任感の象徴であるとして何度もマスメディアに取り上げられたものです。

 しかし、こうした議論が繰り返されていたにもかかわらず、日本の状況はほとんど変わっていません。むしろ、何かあると狂ったように事業者を批判するヒステリックな風潮はもしかするとさらに強くなっているのかもしれません。

chikirin

英語エリートの発言は内容に如何に関わらず受け入れられない?
 このような状況を考えると、基本的には、相互監視を行い、何事においても原則禁止として処理するという、日本社会のやり方は、大方の日本人の支持を得ているのではないかと思われます。

 筆者の肌感覚では、こうした日本的ムラ社会の積極的な支持者は3割程度、内心はあまりよいとは思っていなくても、自分が攻撃のターゲットになるのは嫌なので表面的には従っている消極的支持者が5割程度といったところです。
 こうした社会制度に対して違和感を持っているのは残り2割程度でしょう。こうした人は、そもそも少数派なわけです。

 さらにこの2割の中にも大きな違いがあります。最初からこうした制度に違和感を持っていた人もいるのですが、一方、大人になってから欧米に留学したり、外資系企業に就職して、その感覚を身に付けた人という人も少なくありません。というよりもむしろ多いくらいでしょう。

 日本のムラ社会制度の批判者の多くがこうした、いわゆる外資エリートであることも、問題をさらにややこしくしています。正論であっても、感情的に受け入れられないのです。

 ちきりん氏は自身の経歴を明らかにしていないので詳細は不明ですが、おそらく外資系企業の出身で、MBA留学組です。ちきりん氏がどういった経緯でこの感覚を身に付けられたのかは分かりませんが、少なくとも、外資エリートの発言という形で受け止められる可能性は高いと思います。

 筆者は、こうした日本のムラ社会を維持していては、現状の豊かさを維持することは不可能と思っており、ちきりん氏の主張に賛同しています。

 しかし、ちきりん氏のようないわゆる英語エリートではなく、ごくフツーの日本人の中から、こうした旧来の社会制度にノーを突きつける人が増えてこない限り、日本の社会は変わらないとも考えています。
 ここが、日本人最大の弱点なのかもしれませんが、日本人はロジックによる理解を非常に苦手としているからです。

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